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ももでちっそく

書評・映画レビューが多くなってきましたが、雑記ブログです。口が悪いので酷評することも多いです。すきなひと、さーせんね。

【映画レビュー】 ルーム 評価☆☆★★★ (2015年 カナダ、アイルランド)

 

ルーム [DVD]

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トロント国際映画祭観客賞(ノン・コンペの映画祭なので観客賞は、つまり最高賞)受賞、ブリー・ラーソンがアカデミー主演女優賞受賞。

面白い面白いと人が言う作品を俺が感心することはなかなかないので、『ルーム』も合わないだろうと思って鑑賞したら、案の定合わなかった。物語の導入は悪くないのに、中盤で子どもがあっさり脱出してから落胆し、最後まで退屈なままで終わってしまう。

 

 

ルームという題名の通り、部屋が舞台となる。高校生の時に男に誘拐された女ジョイは、男に強姦され、望みもしない男児を出産させられる。その子がジャックだ。

 

ジョイは、部屋の中でジャックと共に7年も過ごす羽目になる。ジャックは既に5歳となっていた。

 

部屋は、暗証番号によって鍵が掛けられ、中から開けることは出来ない。暗証番号を見ようとすると、男に「見るんじゃない!」と拒まれる。だからどうやっても外に出ることが出来ない。この部屋のことしか知らないジャックは、部屋の外に「外」があるなんていうことを知らない。だから、テレビの中の世界を外だと認識することが出来ないでいるし、唯一外を見ることが出来る天窓も、窓の外とは考えられない。そういった、部屋の中のことしか知らないジャック、外から来たジョイとの「外」を巡る対話は面白い。

 

 

「外」を巡る対話、部屋の中にしかいることが出来ない母と子の描写が連綿と続く中で、観る者の関心は、どうやって二人は外に出ることが出来るのか?というものだ。観る者は、いずれ、二人はずっと部屋の中にいるのではなく外に行ける可能性を想定する。その場合、どのようにして出られるのか?ということに、関心を抱く。

 

しかしその手法が拍子抜けするほどあっさりしていて、二人のことがどうでも良くなってきそうになる。ジョイはジャックに、死んだふりをするように指示する。前日からジャックに、高熱が出ていたという演技をさせていたジョイは、翌日ジャックが死んだことにしようとするのだ。しかしジャックはまだ5歳。死ぬ演技なんか出来っこないし、心臓の鼓動や息遣いを、犯人の男に確かめられたら一巻の終わりである。

 

じゃあどうするのかと思ったら、ジョイはジャックをじゅうたんにぐるぐる巻きにするのだ。じゅうたんにぐるぐる巻きにしておけば、死んでいるかどうかわからないとジョイは言う。「そんなのすぐにバレるだろう」、「バレた後の展開が楽しみだ」と思って観ていると、「バレる」ことなくジャックは部屋の外へと脱出出来てしまう。何しろ男は、ジャックの死体を確かめないからだ。こんな展開では、嘆息と共に大いに落胆せざるを得ない。部屋の中に何年も閉じ込められていたという、オリジナリティの高い設定を台無しにするような稚拙さだ。絶対に暗証番号を見せようとしない犯人が、死体を確認しないというのか?

 

その後、ジャックの証言によってあっという間にジョイが囚われている部屋が特定されるというおまけ付き。ジャックは5歳の子どもである。こんな小さな子が言っている言葉は、ヒントにはなっても真の解まではたどり着けない。つまり部屋の特定などやすやすと出来るとは思えないのだ。まるでこの映画の警察は、人の話を聞いただけで真相にたどり着ける、オーギュスト・デュパンにでもなったかのようだ(『モルグ街の殺人』)。

 

 

この『ルーム』の言わんとしているところは、監禁から脱出されるまでを描いているのではなく、監禁から解放された後の物語である。ゆえに中盤で解放されるのだが、解放されるシーンがスリリングでないことは上記で散々書いた。

 

その後の世界については、望まない妊娠で生まれた子ジャックと、時が止まってしまった7年間を取り戻そうとするジョイとの複雑な関係を描いている。ジョイの実父がジャックのことを正視出来ないことに象徴されるように、監禁前には仲が良かった母子が、望まない妊娠で生まれた息子という現実を直視させられる。時が止まったことにより、そして息子が生まれた現実により、青春時代を失ったジョイの現実。

ジョイ親子はマスコミにも追いまわされ、徐々に精神を病んで行く。ここらへんは、エピソードとしてはまあまあだ。だが取り立てて心を揺さぶられるというほどの描写でもない。でもこれがこの映画の主眼なのだ。

正視出来ない実父が、ジョイ親子を受け入れて行くようなストーリーなら、起伏があって面白いと思うが、この映画はジョイが精神を病んで、身を寄せている母親の家から離れ、ジャックとも離れて、最後にまた戻って来る、というだけだ。もっと印象的なシーンがバンバン出てくれば、この映画にも惹きこまれたと思うが、何しろ『ルーム』は、7年間監禁されたという事実、外の世界を知らない子どもジャックなどという、人目を惹く見てくれを用意するだけである。これで、さあ感動しろといわれても無理があるというものだ。

 

 

主演女優のブリー・ラーソンは普通の演技だが、アカデミー主演女優賞、GG主演女優賞などを獲得するなど高い評価を得た。オスカーは初ノミネートで初受賞だという。なぜだろう?今ひとつ分からない。『ルーム』の舞台が特異だったので、そういう特異性のある世界観に活きる役柄を演じたので、評価されたのか?もちろん下手ということはないが、彼女だから演じられたというものでもないし、絶賛されるほどのパフォーマンスを見せていない。

 

一方で、子役のジェイコブ・トレンブレイは、子どもながら「外の世界」を知らないという難しい役柄を見事に演じ切っていた。ジョイよりも息子のジャック役の方が想像以上に難しいはずだ。彼にアカデミー賞の栄誉を与えるのなら理解出来るのだったが。何とトレンブレイにはノミネートすらなかったというのだから、アカデミーは一体どこに目を付けているのか。