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【書評】 大いなる眠り 著者:レイモンド・チャンドラー 評価☆☆☆★★ (米国)

大いなる眠り

結局、大いなる眠りは一日で読んでしまった。

村上春樹の翻訳がシンプルな文章で作られていて、無駄をそぎ落としているように感じられた。

俺の英語力では、チャンドラーの文章が複雑なのか、過剰なのか、あるいはシンプルなのかを確認する術はないが、村上春樹が、チャンドラーの文章について讃えているところを見ると、シンプルだったのではないかと思える。

村上自身がシンプルな文章を好んで書くからだ。

 

トーリーについては、ハードボイルドだけに、探偵自身の緻密な推理が繰り広げられる訳ではないし、ストーリー上のどんでん返しもない。

 

以前に読んだ、チャンドラーのロンググッドバイと同様に、語り手である探偵を通して、都市の風俗や、探偵自身の、冷笑で、余り女と寝ようとしない孤高の生き方を、チャンドラーの世界観として感じるのが読者の楽しみだと思えた。

 

ヤクザが何人か出てくるが、探偵は、彼らの恫喝に対して、機知に飛んだ、しかしどこか相手の感情を逆なでする言葉を返して、動じない。

村上春樹が言うように、探偵は、自分の自由さを固守している。

自由であるためには強くなければならない。

この言葉の巧みさは、自由さを固守するために必須の技術であるように思える。

 

最後に、物語の終わりまで姿を見せないヴィヴィアンの夫が、探偵に仕事を依頼する、年老いた将軍(ヴィヴィアンの実父)の肉体的な衰えと共に、大いなる眠り=死について語られるラストが素晴らしかった。