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採用の仕事④前々職の新卒と飲み会

前々職で俺が採用した新卒と新宿で飲んだ。この間の記事で紹介したいこいの家っていう居酒屋だ。ここは飲み放題で3200円くらいだから安いが、安かろう悪かろうの店。ただし歌舞伎町にある飲み屋としては静かだから良し。

 

料理はコースを頼んだ。夏なのにしゃぶしゃぶ鍋のコースだが、この店のしゃぶしゃぶは魅力的なメニューではない。何しろ肉が安物だし、野菜もスーパーで買ってきた特売品である。

コースの他のメニューの方が未だよし。鳥の南蛮や、キャベツの炒め物みたいなヤツ。これはまあまあ旨い。

3200円程度で飲み放題でつまみが食えると思えば、満足はしないにしても料理が食えないほど不味いという訳ではないから、そこそこか。

 

意外と良いのは雰囲気で、俺が行ったいこいの家は歌舞伎町のど真ん中にあるのだが、ビルの5階で静かな作りにしてあった。狭い店なのでアルコールを飲んだからと言って変な開放感を抱く必要もない。騒ぎにくいような作りなのだ。加えて俺たちが通された場所は半個室で、2グループしか入れない。相手が小うるさい女子大生グループではあったが、半個室だからそこまで気にならない。

 

料理が大したことないのと、店員が東南アジアの気の聞かない連中だったのは減点だが、静かに飲めるのであれば悪くない店ではある。

 

そんなところに俺は前々職の新卒を連れていった訳である。無論新卒といってももはや入社3年目の男だから新卒だったのは遠い昔のことのような気がする。

 

しかしこの新卒の……名前を仮に青木くんとしようか……青木くんを採用した時のことはよく覚えている。

青木くんは栃木出身で福島の私大院に通う化学系の学生だった。修士2年の2月になっても未だ就職が決まっていない彼に、俺は誘いをかけた。

うちの会社で働いてみないか?

 

その大学は前々職のOBが卒業した大学で、OBの伝で教授を紹介され、2月に学生の採用試験を行うことになったのだった。

教授は俺に3名の学生を紹介してきた。そのうちの1名が青木くんだが、後の2名は、1名は微妙、1名は最低だった。しかし青木くんは非常に良かった。なぜ今まで就職が決まらなかったのだろうと思うくらいだ。

良かったというのはコミュニケーション能力で、会話がぽんぽん成り立つ。それでいて知性も感じさせられる。社会人との会話ができない学生が多い中、こんな田舎の私大でいっぱしのコミュニケーションを取れる学生は評価が高い。

学業成績は普通だし、知性はあるが地頭が良いだけで研磨が足りていない向きはある。要は頭を良くする訓練をしていない感じがした。それでもコミュニケーションがとれて素材が良ければ良い。

俺は必死に彼を口説いた。

絶対入社させたいと思った。何か天命のような閃きを感じたのだ。

そしてその場で一次面接を済ませて、役員面接に進ませ、内定を獲得させることができた。青木くんは他の企業を受けていないと言っていたが、あてにはならぬ。ここ一番の口説きなので付かず離れずではダメだ。まるで女性に彼女になって欲しいと言わんばかりの気持ちを言葉にぶつけた。とはいっても言葉は、感情をストレートに物する訳にはいかない。客観的、論理的に、なぜうちの会社が良いか、青木くんがうちの会社に適しているのかをアピールするのだ。

 

そして内定を受諾してくれて、内定者懇親会にも来てくれた。場所は横浜の居酒屋だったが、店名も店の場所もよく覚えていない。酒も料理も旨かったということは覚えているのだが。

そこで俺たちは浴びるように酒を飲み、2件目の店でもぐでんぐでんに酔った。他にも内定者はいたが皆1件目で帰った。それなのに、彼だけは横浜にホテルを予約しているためか、したり顔で飲み続け、しかも平気な顔でいた。

酒の飲み方が面白く、酒の合間にウーロン茶を飲む。そうすると酔い辛いというのだ。研究室でも教授に連れられて酒を飲みに行くが、教授の酒癖が悪いので酔い辛い酒の飲み方を覚えたと言っていた。それが酒の合間のウーロン茶だ。

青木くんのこういったところが俺は好きだった。

世間に慣れていて、社会の所作をよく分かっている感じだ。

特に内定者の中には絶対に酒を飲まない者がいて、彼との対比がよく出ていた。飲まない男がいるので、余計青木くんの良さが出ていたような気がした。

 

入社後は新入社員研修があって、採用担当の俺は研修の担当も兼ねていたから、研修中も一緒だった。会社は大嫌いだったが、青木くんは良いなあと思った。

研修中は、青木くんとは他の内定者と共に酒を飲んだり、カラオケに行ったりした。研修後は、青木くんは本社配属になり、勤務場所は俺と同じになった。

たまに飲むことがあると奢った。俺の上司が部下に奢らない人だったので、反面教師で新卒には奢ってきた。奢るということは、嫌らしい話だが、恩を着せるということでもある。俺にその気がなくても、奢られた方はそう思うのだ。俺だって今の会社で上司に奢られるのだが、上司に恩を返したいような気になる。もちろんその上司が尊敬に値するからそう思う訳だが、尊敬する上司が尚且つお酒を奢る人だと、俺は股間を握られた気になるのだ。もちろん俺は青木くんに対して、心配事や悩みがあれば相談に乗ったし、俺自身もざっくばらんに青木くんに愚痴ったりした。尊敬とは違うが、青木くんがいまなお俺と飲んでくれるというのは、年が違うとはいえ気のおけない人間だという感覚を持ってくれているに