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ももでちっそく

書評・映画レビューが多くなってきましたが、雑記ブログです。口が悪いので酷評することも多いです。すきなひと、さーせんね。

採用の仕事⑤逃げ続ける嘘つき

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2012年だったか。俺が働いていた会社に入った新卒の話だ。その彼を仮に黒崎くんと呼ぼう。

 

黒崎くんは大阪出身で、大学は近畿大学だった。近畿大学といえば最近人気の大学であるが、いかに人気であろうと、西の日東駒専の一角で、そう難易度が高い大学ではない。中には優秀な学生がいるが、黒崎くんは普通だった。

 

黒崎くんは、会って直ぐに、嘘つきだということが分かった。大学にしても、入社した会社にしても、どこか軽視しているところがあり、そんなところにしか縁のない自分を恥じていた。にも拘らず、時間が経つと自分を良く見せるようになった。挙げ句の果てには、自分はどこにでも勤められると吹聴していて、 これは詐欺師だなと思った。詐欺師にも大小あるが、彼は幼稚な詐欺師だ。何しろちょっと話しただけで、俺から詐欺師だと悟られてしまったのだから。

 

自分を軽視しているにも拘わらず、自己をよく見せようとする黒崎くんにとって、人を騙す方法は言葉だった。彼は誰とでも仲良くなれると吹聴していた。俺は彼が神経質な人間で怒りっぽく、自分を抑えられないことを知っていたので、そんな人間が誰とでも仲良くなれるはずがないと思った。しかし、一見すると社交的で自ら何でも明け透けに話す黒崎くんは、確かに誰とでも仲良くできるように見えなくもなかったから、皆彼を信じた。俺の上司などは、社交的な彼を気に入り、新卒研修や配属後も黒崎くんと飲んでいた。

 

黒崎くんは、「東京は世知辛いなあ。大阪ならそこらへん歩いてるだけでオバチャンとも友達になれますよ」と、平気な顔で俺に言ってきたものだが、俺は笑いもせず、「ほんとかよ?」と信じる素振りを見せなかった。彼を信じない俺は『人間失格』で世を欺く主人公を見抜く、竹一のようだった。黒崎くんは、だから、俺のことを敬遠していたと思う。そう、黒崎くんは明け透けに自分を語る役割を演じているだけで、一向に自分というものを見せない。まさに『人間失格』の大庭葉蔵のような男だった。

 

 

斜陽・人間失格・桜桃・走れメロス 外七篇 (文春文庫)

斜陽・人間失格・桜桃・走れメロス 外七篇 (文春文庫)

 

 

 

一番彼の嘘で嘘臭かったのは、仕事についてである。彼は、大学の成績は良くないものの、原子力を専攻していることもあり、当時の原子力安全・保安院にあと一歩で受かっていたと言っていたのだ。筆記試験は合格で面接で落とされたと言っていた。国家Ⅱ種ということなのだろうが、それでも彼の入社試験の出来の悪さや、研修時のレポートの不味さなどを見ていると、とても学力が高いように見えない。Ⅱ種といえども国家公務員試験である。入社後も公務員試験を勉強していた形跡が見えなければなるまいが、思考力を文章やモノを考える力で見てみると、その形跡は見えない。これはまた嘘をついているなと分かった。分かったが、確かめようがないから、皆、とりあえず信じていたのだった。

 

それともうひとつ、会社を辞めてもどこにでも行けると言っていたことだ。学生の頃から大人との付き合いをしており、大阪から上京して新卒研修を受けていた頃は、東京のビジネスマンと交流していることを吹聴した。そういう付き合いを続けているから、もし辞めても路頭に迷うことはないというのだ。

 

彼のコミュケーションセンスは、悪くないものだと思うが、それにしても思考力がないので、話していると底の浅さが透けて見える。まず、彼は本を読んでいないことが分かるから、大人のビジネスマンが黒崎くんのような若者を買うはずがない。だから、これも嘘だろうなと思ったが、彼は真実だと思って言っているのだった。

 

そんな彼に転機が訪れた。会社の希望退職制度に応募したのである。わずか1年半ほどの勤続だった。情けないことに、彼はこの時も嘘をついた。自分は大阪に戻って仲間と会社を興すのだと。

何もセールスポイントがない彼が、何を売ろうというのか?馬鹿馬鹿しくて聞いてられなかった。それなのに俺の上司ときたら、その言葉をそっくりしんじて、あいつは凄い、もう次の構想があるなどと言う。本当に、こんなレベルでよく人事の課長をやってられるよなと思うが、そんなレベルでも務まる会社だった。

 

そして彼は辞めた。俺もその後何年かして退職したのは、このブログを読んでいるキミならご存じの通り。

 

そして俺は、最近になって、ふと、彼の名前をGoogleで検索したくなった。何かの拍子で彼を思い出したのだ。恐らく、前職の青木くんという若者と飲んだせいかもしれない。

 

そして調べたら、彼のSNSにたどり着いた。読んだら彼の真実が書いてあった。

 

結局彼は、会社を辞めた後フラフラしているだけだったのだ。綴られていたのは、何とか現在は勤めているものの、高校も大学も適当に決めて、大事なことから逃げ続けてきた人生だということだった。大学も、国立を狙えば良いのに、落ちることが怖くて挑戦できず、近畿大学程度で済ませている。そして、驚くべきというか、案の定だったのは就職先で、入社した会社は、一番最初に受かった会社だから入ったと言うのだ。だから、原子力安全保安院なんて、受験さえもしていない。あまつさえ、会社も、内定先がなくなることが怖くて、内定をもらった会社に決めたに過ぎなかったのだ。なんとまあ、情けない嘘つきの人生か。そして、逃げ続けてしまう人生か。

 

仲間と会社を興すなんていう冒険も、もちろん嘘。彼はSNSでこう言っている。どんなに逃げ続けても、母だけは自分の味方だと。バカ言ってんじゃねえや!そんなお袋、さっさと縁をきっちまいな!!お前にとって百害あって一利なしだぞそのヤラァは!

 

なぜなら、高校も大学も就職先も適当に決めて、嘘つきでしかない人生を送り続けて、何も確固たるものを固められない彼を、甘やかす母親などは、彼が社会で生きていくために、最大の足かせだからである。