【書評】 MBAが会社を滅ぼす 著者:ヘンリー・ミンツバーグ 評価☆☆☆☆★ (カナダ)
- 作者: ヘンリー・ミンツバーグ,池村千秋
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2006/07/20
- メディア: 単行本
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ヘンリー・ミンツバーグのビジネス書は俺の感性に合っている。というよりも日本人の感性に合っているというべきか。ドラッカーやマイケル・ポーターに比べたら我が国では知られていないが、日本企業が実践してきたマネジメント育成に近いものを、彼は推進している。
彼はマネジャーやマネジメントについて多くを語るが、彼の考え方は極めて”実践的”だ。すなわち、マネジメントは実践である。机上において語ることは出来るが、マネジメントを見に着けるためには実践が必要である。学生なら就職した方が良い。
本書のタイトルが『MBAが会社を滅ぼす』と題されているように、マネジメントはMBA流の分析では到底習得することができない。マネジメントは実践であり、正解がない。マネジメントはサイエンスではないから、こうすれば上手くいくというシンプルな解決策はない。しかしMBAはあたかも正解があるかのようにマネジメントを説く。これでは”実践的”ではなく、現実から遠く離れている。
ミンツバーグはマネジメントを評してこう言う。マネジメントは、組立家具ではない。それは、レゴの積み木なのだと。すなわち、レゴには組み立て方に際限がなく、幾通りもの組み立て方がある。マネジメントも同様に、組立家具のようにマニュアル通りのやり方で組み立てられない。正解はなく、結論を出すために幾通りもの方法があるのだ。
本書はビジネス書であり経営学の理論書ではない。参考文献がたくさん載っているし、ページ数は500ページに上るが、学術的な書物ではなく、平易な言葉で書かれ、そして内容もまさに実践するマネジャー向けに書かれているので、読み易い。500ページ全てを読む必要はないし、自分が必要と思う箇所だけ読めば良い。
本書は250ページほどをMBA批判に割いているが、MBAが必要とされている欧米向けにここまでページを割いているのだろう。MBAが重視されていない我が国では読まなくても分かってる、というようなものだろう。だからタイトルは『MBAが会社を滅ぼす』とあるが、日本の読者にとっては250ページほどは読まなくても良く、本書の副題にあるように、それ以降の「マネジャーの正しい育て方」から読むと良い。ここでは、日本の企業におけるマネジメント教育についても好意的に書かれているので、少しこそばゆいかもしれないが。
例えば、
成功を収めている企業は、マネジャーがリスクを伴う行動を取って失敗することを許容している、というより奨励しているという。そういう企業では、「部署の垣根を超えた人事異動が頻繁におこなわれ」て(略)いる。「ゼネラレルマネジャーを『育てる』には時間がかかり、近道はありえない」とわかっているのだ。
この点を最も心得ているのが日本企業だ。(略)マネジメントの能力は「先輩の仕事ぶりを自分の目で見て、先輩の話を聞いて、先輩の下で実際にやってみてはじめて身につく」と、日本では考える。
・・・と書く。
要は我が国のOJTが「良いね」ということを言っている訳だが、マネジメントが形式通りのマニュアルでは絶対に学ぶことが出来ず、実践でしか習得し得ないゆえに、日本のOJTを評価するのだろう。
本書はこのようにマネジメントは実践であるとの核心を元に書かれた本だが、大半はMBA批判であり、ミンツバーグ流のビジネススクールについてもページを多く割かれているので、単にマネジャーやマネジメントについて知りたい読者には向かない。面白くないと思えるからだ。
俺も正直、MBA批判の250ページ程は「もういいよ」と思える部分も多く、『戦略サファリ』や『マネジャーの実像』ほどに読み耽るには至らなかったが、マネジメントは実践だということが繰り返し説かれ、経営学者らしいいくつかの理論によって支えられたマネジメントへの思考は、本書を通じて十分に理解する事が出来る。