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君に届け

君に届け (1) (マーガレットコミックス (4061))

君に届け (1) (マーガレットコミックス (4061))

久しぶりに少女マンガを読んだ。タイトルは『君に届け』という作品で、講談社漫画賞を受賞している。1~26巻まで。未だ連載が続いている。非常に長い・・・手塚治虫だったら6巻くらいで終えていたかもな。もっとコンパクトにできるはずなんだが。

とはいえ、少女マンガは割りと好きな方だ。心理を描く作品が多いので読んでいて面白い。俺が書いている小説にも活かされるのではないかと思う部分もある。
それに絵が非常にキレイ。俺は男性漫画家が描く「女性」があんまり好きでない。男が描いた女って感じで鼻につくのだ。男が女性の理想像を描いているよなぁと思わせられる。喩えは悪いが、もう手をつけられちゃってる女性という感じがしてしまう。その点、女性が描く女性は自然。

逆に俺はあまり少年マンガが好きではなく、苦手である。『ドラゴンボール』『幽遊白書』『名探偵コナン』『金田一少年』『ワンピース』などみな苦手である。手塚治虫ばかり読んでいたので、今挙げたような少年マンガは、無理やり話を伸ばしていて、作家主導のストーリー展開になっていないので面白くないのである。そういう意味では『君に届け』も無理に長くしている感はある。もっと短くできる。だが、上記の少年マンガよりは心理描写にすぐれているので読んでいられる。

本作は北海道を舞台に、高校生の恋愛を描いている。主人公は黒沼爽子(くろぬまさわこ)という、一見不気味で、実は結構かわいい女の子だ。そんな女の子と、学年で割とモテる男の子風早が付き合うようになるというストーリー。ただ、モテる男の子と付き合うようになるといっても、いわゆるシンデレラストーリーではない。風早も爽子のことが好きだが、爽子のことを憧れていると言う。爽子の方でも風早に憧れを抱いているので、相思相愛のストーリーであり等身大の二人を描いていると感じる。

このマンガが優れているところは、恋愛に関する少年少女の感情を緻密に描いているところだろう。読んでいると思わず引き込まれ、笑ったり泣いたり(実際に笑う・泣くという意味ではなく、感覚的にそういう感情を抱くという意味)できる。

主人公の二人が、恋愛に対して臆病で、おそるおそる「恋愛」というものに近づいていく。その様をリアルに描いている。こういうマンガは、最近少女マンガを読んでいなかったので、新鮮だった。

爽子と風早の初恋を描いているが、この「恋愛」に対しておそるおそる近づいていく様を緻密にリアルに、そしてリアルゆえに自然に描かれ、俺の心は、中学生くらいにタイムスリップしてしまった。俺も田舎育ちだが、高校生になると大人になってしまって、「恋愛」におそるおそる近づくような心理はなくなってしまった。中学生時代がまさにこの作品の主人公たちのようだった。だからそれを思い出した訳だが、記憶の片隅にこんな新鮮な初恋時代の感情がしまわれているとは思わず、「あっ、確かに初恋の頃ってこんな感じだったよな」と思い返す。

小説を読んでいてもここまで初恋をリアルに自然に描いている作品は多くなく、純粋な初恋を描いていても、淡白で、もっと深く描いてくれと思うことが少なくない。『君に届け』は、初恋の心理描写をしつこいくらいに描く。そう、このくらい粘っこく描いてくれると満足するのだ。


問題点もある。
一見不気味な雰囲気を持つ爽子は、最初は周囲に怖がられるが、いじめられるようなことはない。綽名は貞子で、明らかにホラー映画の貞子を意識した綽名なのだが、いじめられない。中学生・小学生ほどではないにしろ、高校生もまだまだ子どもで、変わった子どもを排除する傾向にあるのだが、そこは深く描かれていない。
爽子はホラー映画の貞子のような不気味さを漂わせているのに、実は結構かわいいという設定を活かしたい。そしていじめのようなドロドロした世界を描くよりは、高校生の爽やかな恋愛を描きたいので、いじめられる要素があるにもかかわらず、描かずコメディにしている。
その他にも、キャラクターの顔を崩してコメディにするシーンも多い。普段は美男美女なのに、顔をギャグマンガみたいに崩して笑いを取る。

君に届け』は、シリアスなシーンはシリアスに描くけれども、コメディは一貫してコメディに徹する。そこが個性と言えば個性だが、割りとコメディシーンも多くて、無駄だなあと思わせられる。ざっくりコメディシーンを削除して欲しかったように思う。

もう1つは、男から見ると風早にだんだん魅力を感じなくなってきているところだ。
26巻までしか読んでいないせいかもしれず、今後の展開はどうなるか分からないが、風早は、自分の進路に思い入れがあまりない。爽子は人にものを教えることが特異なので教師を目指す。爽子の友人ちづると彼氏の龍は、主人公たちとは逆に、龍が大学で野球をやることを目標にして(そのために遠方の大学を目指す)、ちづるの方は地元に残る。主人公たちと、ちづる・龍たちのコントラストを描きたかったのだろうが、男からすると「風早~、オマエなんかフラフラしてんなぁ」という感じ。もっと芯を持て!と思ってしまう。具体的に何々になりたいという目標がなくても、「爽子に負けてられない」という気持ちが欲しいところ。

27巻以降はどうなるのか?大学に進学したら大学編が続くのか・・・ちょっと長すぎる気がするが、もう少し見届けてもいいかな。初恋の清新な気持ちを思い出させてくれた『君に届け』、うざいくらいに純粋だけど、でも、初恋ってこんな感じだったはず。