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ももでちっそく

書評・映画レビューが中心のこだわりが強いブログです

【書評】 All You Need Is Kill 著者:桜坂洋 評価☆☆☆★★ (日本)

 

All You Need Is Kill (集英社スーパーダッシュ文庫)

All You Need Is Kill (集英社スーパーダッシュ文庫)

 

 

 

このブログにはゲームの話題がほとんどないし、書くつもりもないので読者がゲームについての知識を持っているか否か分からない。しかし『ドラクエ』や『FF』というゲームの名前くらいは聞いたことがあるだろう。日本の代表的なゲームだ。そして、そのジャンルがRPGということも聞いたことがあるかもしれない。

 

いわゆるRPGは敵を倒していく毎にキャラクターのレベルが上がり、文字通りキャラクターは強くなっていく。強くなることでより強い敵を倒せるようになる。しかし、時には、あまりに強い敵と戦うと、キャラクターは死ぬこともある。死ぬ時はゲームの終わりを迎えるが、それでゲームを永遠に遊べなくなる訳ではない。ゲームのデータを記録したところから、もう一度遊べるようになるのだ。

 

そして生き返ったキャラクターを操って、もっとレベルを上げる。そして強敵をいつかは倒せるようになっていく。倒せるようになるまで、キャラクターは死に続け、そして復活し続ける。ゲームが物理的に壊れることがない限り、キャラクターは永遠に生き続けるかのようだ。このゲームの世界において時間のループを繰り返し続けるのである。

 

 

All You Need Is Kill』というライトノベルは、このRPGのような永遠性、繰り返し、時間のループを扱ったSF小説だ。トム・クルーズ主演で映画化され『オール・ユー・ニード・イズ・キル』という邦題(原題『Edge of Tomorrow』)で公開された。映画版と違う点は、日本を舞台にした原作と異なり、欧州地域が舞台であり主人公も日本の青年ではなくアメリカ人の壮年になっている。ゆえに名前もキリヤ・ケイジではなくウィリアム・ケイジ。映画版では姓が名になっている。しかし多くの点では原作を踏襲する。

 

ライトノベルというとイラストが入っている若者向けの小説のジャンルということで、思わず読み飛ばしたくなるような退屈な文章が並んでいるかと予想したが、予想に違わず生硬な文章で、スタイリッシュなSFの世界を丁寧に構築していた。会話は漫画的、ゲーム的な印象を受けるが、地の文はしっかりと書かれていて読み易い。

 

 

トーリーは、ギタイと呼ばれるエイリアンが地球を侵略している近未来の世界。日本のみならず全世界がギタイの侵攻によって荒廃し、人類は勝ち目の薄い抗戦を続けていた。

主人公キリヤ・ケイジは、統合防疫軍という軍隊に初年兵として入隊。脆弱な兵士として前線に赴くが、リタ・ヴラタスキという英雄的な女性兵士のサポートもむなしく、物語の序盤であっけなく死ぬ。 

しかしなぜか生き返ったキリヤは、出撃前日に時間を呼び戻していた。そして、何度も死んでは蘇生することを繰り返す。キリヤは、繰り返しの物語=時間のループを続けるうちに、記憶の蓄積により自分を「成長=レベルアップ」させていく。物語の序盤で脆弱な初年兵だった彼はいつしか英雄的な女性兵士リタと肩を並べるまでになる。そして、キリヤは、リタと共にギタイを倒す秘策を見つけようとしていく。

 

 

映画版に比べるとやや複雑な構成で分かり辛く、戦闘シーンの迫力も描き切れていないという印象を抱いた。

 

加えて、もっと明確に、繰り返しの物語であるの悲劇性を強調するべきだったと思った。何しろ主人公キリヤだけが時間のループを繰り返すことが出来るのだから、例えば、何も変わらず同じ行動を繰り返して行く周囲の人間と自分とを比較して、葛藤する様子を仔細に描いても良いと思うのだが、やっていない。

繰り返しの物語の中に女性の姿が入って来ても良いかもしれない。好きな女性がいて彼女は時間のループに入らないが、キリヤだけは入ることが出来るので、その女性といずれは離ればなれになってしまうような、感傷的なエピソードを入れるとか。それがヒロインのリタなのかもしれないが、彼女のことをキリヤが好きかどうかは最後の方で取って付けたように定かになるだけで、ロマンティックな言葉のやり取りもないし、そもそもリタ自身が魅力的に描かれていないので、彼女が死んだところで感じ入るものは少ない。

そういった、何かしらの葛藤、感傷が明確に描かれていないので、この小説が悲劇の衣装をまといながらも、読者は小説との間に距離を感じ、他人事のように感じられてしまった。

 

 

上記の欠陥はあるものの、スタイリッシュでハードなSF世界を構築した想像力、そして時間のループを活用してSFアクションへと導いたアイディアは評価したい。後者の手法はいくらでも応用出来る。SFでなくてもアクションでも良いしファンタジーでも良い。

 

この小説における、主人公が強くなって敵を倒すということは、「成長物語」の構造になっているからだ。だから本作ではジャンルがSFだが、アクションでも良いしファンタジーでも良い訳だ。時間のループを繰り返して強くなる物語は、フィクションの可能性を押し広げる。アクションやファンタジーでなくても、恋愛でも、あるいは政治や戦争物語でも使えるだろう。政治や戦争だと考えるだけで恐ろしい物語が出来るかもしれない。読者にフィクションの可能性を感じさせてくれる本書のアイディアとおおまかなあらすじはとても良かった。この作品以外にも独創的なアイディアを用いた他の作を読んでみたい気もする。