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【書評】 しろいろの街の、その骨の体温の 著者:村田沙耶香 評価☆☆☆★★ (日本)

 

 

小学校4年生から、中学2年生にかけての一人称のシンプルな物語で、「女性の性への目覚め」、「女子生徒間の階級制度」などを臨場感のある筆致で描く。特に執拗に描かれる「階級制度」は相当にリアリティがある。文章を読んでいて、あたかも眼前に主人公のいるクラスが存在するかのようだ。

ただ、この「女子生徒間の階級制度」は、角田光代直木賞受賞作『対岸の彼女』(2004年)で克明に描かれていたので、既視感が否めない。しかも本作は性描写が特筆すべきではあるが、物語性がシンプルに過ぎ、構成力では『対岸の彼女』には遠く及ばない出来であった。何しろ『対岸の彼女』は、主人公が二人いて、時間も現在と過去とに分かれ、互いの物語を行き来しながら、最後は収斂するというものだ。そのように、巧妙に読者を作者の意図通りに引き寄せる、論理的な物語の展開を本書で見ることは出来ない。

 

とはいえ、同級生の男の子を「おもちゃ」扱いする小学生時代の描写は、醜悪でありながら正視せずにはいられない魔力を持つ。一般に、男子は、女子よりも肉体の成長が遅い。そして、性的な知識については、主人公は性の知識があるが、同級生の男の子・伊吹にはそれがないという設定になっている。ゆえに、腕力が強くて性の知識が豊富な主人公は、伊吹にわいせつ行為を行うのだが、伊吹はそれが性的なものだとは分からないのである。この「分からない者」に無理に性的な行為をさせるというのは、犯罪の匂いがするけれど、エロティシズムが漂うのは否定できない。そのエロティシズムは卑しいものだが、鑑賞せざるを得ない。

 

主人公は伊吹よりも腕力に差があるが、それを逆手に取って、伊吹に、無理やりキスをしたり身体に触れたり、エロ本を見せつける主人公と伊吹の関係は、グロテスクなエロスに包まれている。不気味でありながら甘美なのだ。しかし中学生時代になると、腕力で同級生の方が上回り、かつ性の知識を持つようになるので、途端に二人の関係はいびつでなくなる。対等な関係になってしまうからだ。不気味でありながら甘美なエロスは、二人の間から見えなくなってしまう。そして終盤までこの関係が続き、ようやく主人公が伊吹に無理やりフェラチオをする描写が出てきて、いびつな関係を示すが、もはや性の知識がある伊吹と主人公に、グロテスクなエロスを嗅ぎ取ることはできない。その証拠に、二人はいびつな関係を復活させず、「正しく」セックスをする。単なる個性的なラブストーリーと言ってしまっても差し支えないような、平凡な幕の閉じ方をしてしまった。

 

主人公は、クラス全員から蔑まれ、階級制度の最下位に落ちるのである。そんな女と「正しく」セックスをする伊吹は、作者の妄想でしかない。筆者がもし書くなら、主人公が嫌悪する形でセックスさせるか(暴力を伴うセックスとか)、あるいは、セックスを絶対にさせずに主人公の存在を全否定する言葉を吐かせるか、それとも、セックスなしで主人公を完膚無きまでに暴力でねじふせる。そして全てに否定された主人公は死を想起するという・・・

 

コンビニ人間』が面白かったので、本書を手に取った訳だが、『コンビニ人間』とは随分と差があるようだ。文章も全体的に雑な書き方で、知性が感じられない。ぐいぐいと最後まで一気に読ませるが、物語の展開が巧みなのではなく、文章が軽いだけである。『コンビニ人間』を書いてしまったのだから、現代の純文学作家の中では、村田沙耶香は抜きん出ていると信じたいが。

 

 

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