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【書評】 こんなオレでも働けた 著者:蛭子能収 評価☆☆☆☆★ (日本)

 

こんなオレでも働けた (講談社BIZ)

こんなオレでも働けた (講談社BIZ)

 

 

 

私は現在仕事が楽しいが、それでも仕事とが辛いか辛くないかと言われれば、辛い。できれば、やりたくないものである。

仕事とは第一義的に「辛い」ものであり、それが前提としてある。私だってそうだ。だから、仕事は、先ず「辛い」ことが先にくる。その中でも私は自分の好きな仕事をしているのだから、「楽しい」と言い得る。仕事が楽しいというのは、そういう意味である(辛いけど、楽しい)。本当は、仕事は「辛い」のだから、できればやりたくないのである。

 

仕事とは辛いものだ。辛いからどうするのか?辞めるのか。

辞めたところで生活はできない。では、辛い仕事をしながら、何も考えずにずっと耐えるのであろうか?人間だからそんなことはできない。だから、辛い環境下の中で必死に成果を上げて、出世を目指すのであろう。金や名誉が得られれば、辛い環境も乗り越えることができる。あるいは、プライベートで、恋をしたり家族を持ったりするのだろう。

でも、みんな出世できる訳じゃない。みんな良い会社に入社できる訳じゃない。恋も家族も持てないかもしれない。それでも、働かなければ、生きてはいけない。そういう時にどうするのか。

そんな時の癒しの書となるのが、今回紹介する本である。

 

 

漫画家の蛭子能収は、高卒後33歳で漫画家としてデビューするまでの15年間、サラリーマンをしていた。働きながら彼は漫画家としての夢を追い続け、33歳で実現する。蛭子のエッセイ『こんなオレでも働けた』には、夢だけは諦めずに追い続けた彼の活力が描かれているが、今でいえば「GRID」のようなものであろう。

 

サラリーマン生活を経て、漫画家、そしてタレントとして活躍した蛭子が、同書でこう言っている。

 

金を稼ぐためには、自分の仕事がつまらなくても、会社に不満があっても仕方がないのだ。それを我慢しているから、お金が手に入ると割り切った方がいい。

 

そしてこうも言う。

 

オレはサラリーマン時代、勤務時間内は死んでるつもりでいろんなことをやり過ごすことにしていた。会社にいるあいだはとにかく自分を殺そう、オレは、会社に自分の時間をあげることで給料をもらっているのだ。

 

金のためなら死んだふりでいい、ということだ。会社には自分の時間をあげる、ということだ。

 

私だっていつ仕事が「楽しい」から、「退屈」になるか分からない。ずっと楽しい仕事なんて、ない。だから、仕事とは、第一義的に、「辛い」ものなのである。ただし、仕事は辛いが、しかし、仕事をすることで金がもらえるし、生活を成り立たせることができるのだ。仕事のおかげ、なのである。

 

蛭子は金を稼ぐことの厳しさも分かっている。だから、金を稼ぐことに恥ずかしさなんかないし、むしろ積極的に稼ぎたいと、テレビで発言している。だから「蛭子さんってせこいよね」と他のタレントに言われるし、視聴者もそんな風に見ている。でも金を稼ぐって大変なことではないか。

 

私は金を稼ぐことの厳しさと共に、その尊さも感じる。まるで体内を循環する血液のようなものではないか。血がなければ肉体は活動できないように、金がなければ生活が成り立たない。だから稼ぐことは尊いことだと思っている。

 

 

彼は若いうちに結婚して子どもを持っていたので、漫画家になりたいという夢がありながらも、生活を成り立たせねばならないと思っていた。だから自堕落な働き方はせずに、きちんと金を稼いでいたのである。彼は夢のためなら働かなくていいという考えには与しない。しっかり金を稼ぎ、その上で夢を追いかけるべきだというのだ。

 

クズ呼ばわりされることが多い蛭子だが、こんなにもマトモなことを言っているのかと思い、少し尊敬してしまった。蛭子は、「葬式で笑ってしまう」とか、「障害児として生まれた我が子が死産して喜んでしまう」とか、常人が理解し得ない感性を持ってはいる。だが労働に関しては、私は彼を支持する。

 

本書はかなり薄い本で、1時間もあれば読み終えてしまう本である。だが金を稼ぐことの厳しさ・尊さを考えている私にとって、本書は何度も読み返すほど好きな本である。もっとも、蛭子自身はビジネスで成功した人ではないから、底の浅さは否めない。仕事は金をもらうために行うのだから割り切る。それはそうだが、その先は見えない。だがそれは蛭子の本に求めることでもないだろう。

 

さて、仕事はやっぱり辛いし、嫌だ。Hawaiiとか沖縄なんかの南国に行くと思うのだが、もう何もせずに、ここで一生を過ごしたいという気になる。でもそうはいかない。Hawaiiや沖縄に行けるのも働いているからだ。そのためには、辛いけど仕事をしなくてはならない。死んだふり、会社に時間をあげる、その感覚で良い。