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【映画レビュー】 麦の穂をゆらす風 評価☆☆★★★ (2006年 アイルランド、英国)

ケン・ローチ監督によるアイルランド独立戦争を舞台にしたヒューマンドラマ。左翼を任じ、労働者に焦点を当てた映画を撮り続ける監督らしい視点で独立戦争を描く。カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作。

兄テディ、そして弟デミアンの二人は、この世にただ二人だけの兄弟である。共にアイルランド人。英国からアイルランドの独立を目指すため、二人はゲリラ戦に加わる。しかし、リーダーのテディは英国軍に捕まり、危うく殺害されそうになってしまう。英国軍がテディを探しに来た時、デミアンは自分がテディだと言ってテディを庇おうとするが、結局テディは捕まってしまうのだった。

英国軍にアイルランド出身の男がいて、彼の手で脱走するのだが、安直で作為的な場面で辟易させられる。英国軍も彼がアイルランド出身だということくらいは知っているだろうし、そんな男の裏切りを予想できないはずもないだろう。それなら当然、彼を一人にすることなく監視すべきだが、英国人兵士は小便に行っていて、その隙にテディ、デミアン、他のアイルランド人たちは、脱走に成功してしまうのだ。

戦争映画であるはずが、戦争映画っぽくない。銃撃の効果音が安っぽいのと、撃たれても血が出るシーンが少ないので、撃たれているのかどうかよく分からないのである。無暗に残酷な場面を作る必要はないだろうが、多少なりとも凄惨な戦争シーンがないと戦争の恐ろしさが伝わってこないし、何より目の前で戦争が起こっているという緊迫感を感じない。冒頭の青年やテディに対する拷問シーンには、多少戦争の暴力性を描いてはいるが、他のシーンは演劇のようで、つまり撃たれる振りをしているようにしか見えない。あまりにチープので、ゲリラ戦を行っているという設定なのに、草むらで戦争ごっこをしているように見えてしまう。

この映画で褒められるべきは、1つ。

それは、英国とアイルランドとが条約を締結して休戦状態に陥るが、その条約の内容がアイルランドに不利なものであったこと。そしてそれにアイルランド人、そしてゲリラ部隊は憤り、この条約を不服として戦うことを告げる。
条約はアイルランドの独立を認めるものではなく、あくまで英国の自治領として認め、従って英国王に対して忠誠を誓うものだったので、「何のための独立戦争か」と彼らは憤怒の念に駆られる訳である。
そして、兄テディがアイルランド自治領を認める側、弟デミアンがそれを不服として戦う側に別れて争い合う。

最後はテディがデミアンを処刑して物語は終わるのだが、この展開も骨肉の争いを見せるものとしては淡白で、観る者としては客観的に捉えてしまうのが残念であった。手塚治虫の『アドルフに告ぐ』の2人のアドルフのように、激しい殺し合いを見せてもらえれば、まだしも兄弟の悲哀を感じ取れたと思うが。