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【映画レビュー】 世界一キライなあなたに 評価☆☆☆★★ (米国)

邦題と映画の内容が合っていない『世界一キライなあなたに』は、恋愛、障害者、そして尊厳死とを扱った複雑な題材を持つ映画である。

生を謳歌していた31歳の青年実業家のウィルは、雨の中電話を掛けながら歩いていたところ、バイクに跳ねられて半身不随になってしまう。動くのは首の上と、指先くらいである。セックスも出来ない。知性が保たれながらも体のほとんどが動かないことで、ウィルは人生に絶望して、尊厳死を希望していた。ウィルは城を持つほどの資産家の子どもでもあり、両親は健在で彼らも息子が生きて欲しいことを望むが、ウィルの意思は堅い。母親は、あと6か月だけ生きて欲しいとウィルに言い、そのためにウィルの友人として身の回りの世話係を雇う。それがヒロインのルイーザこと、ルーである。ルーは明るく思ったことを何でも口にする女性だが、貧困層に位置して、彼女が働かなければ一家は露頭に迷う。大学に通うこともルーの希望だったが、進学を我慢して労働に勤しんでいた。

死を願っていたウィルが、ルーの明るい性格にほだされて尊厳死を選ばなくなるような爽快な恋愛映画になるのかと思えば、そんなことはなく、ウィルはあくまでも、半身不随以前の状態に戻れない自分を受容できず、尊厳死を選んでいく。ルーとウィルは愛し合うようになるのだが、ルーはウィルの意思を変えられず、物語の終盤、尊厳死が合法であるスイスへと、彼は行ってしまう。ルーはスイスにも同伴して彼の最期を見届ける。死んだ後にウィルから受け取った手紙の中で、ルーは、自由な選択肢を決定するための資金を得る。それは、半身不随の状態で何もなし得ないウィルによる、彼ができなかった自由を、ルーにやって欲しいとの願いが込められている。

人の意思決定を変えられないのは、確かにその通りかもしれないが、ルーがいかにウィルを愛してもウィルの決断を変えられないとすると、これは果たして恋愛映画なのか?これは恋愛映画の衣装をまとった別の映画なのではないかと。別の映画と言ったところで、尊厳死を問題にした人間ドラマとでも落ち着く程度で、さしたる驚きを読者に呈し得ないのだが。ウィルはルーを愛するからこそ、ウィルに縛られずに自由な人生を生きて欲しいというが、彼女に渡された金が手切れ金のように見えてならない。

この映画はどうもキリスト教の死生観に賛同してはいないようだ。ルーの家族は熱心なキリスト教徒で、食事の前にもきちんと祈祷をする。キリスト教は自殺を認めていないが、映画は、ウィルの選択肢を否定的には描いていない。むしろ、半身不随になって苦しんでいるのだから、尊厳死を認める意思決定を尊重する。しかしルーの家族は、ウィルが自殺を思い止まらないこと、ウィルの尊厳死の準備にルーを利用したことに憤慨する。物語の結末は、尊厳死を行うウィルの決心を尊重し、キリスト教的死生観に与しない。

私はこの映画を妻とともに観ていた。妻はこの映画を観て、感心していなかったようだ。ルーがウィルの意思を変えられなかったところに、愛を感じ難かったと言う。私も同感である。ウィルの愛は、尊厳死と天秤にかけると弱いからである。ルーは、半身不随のウィルをも愛したのだが、その思いよりも自らの思いを優先したからである。ウィルにこだわることなく、ルー自身の自由を手にして欲しいために彼女に資金を提供するのだが、それは強い愛とは言い得ない。ただ、この映画において、尊厳死を選ばざるを得ない障害者の苦難は痛いほどに伝わってくる。そこに焦点を当てると標準的な評価を与えて良い映画である。