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【書評】 生産性 マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの 著者:伊賀泰代 評価☆☆★★★ (日本)

 

生産性―――マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの

生産性―――マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの

 

 

マッキンゼーの採用マネージャーによる生産性向上を解いた本。著者は、現在は独立しているのだが、前著『採用基準』、本書のような、マッキンゼーの経験から得たビジネス書で名を挙げた。もう独立しているのだからマッキンゼーから離れても良いと思うのだが、マッキンゼーではこう実践しているとか、考えているというフレーズの本は、需要があるのか訝しく思うが、本書は、ビジネス書ランキングで上位にいたのだから、一定の需要があるのだろう。

 

本書では、生産性向上のための4つのアプローチが興味深い。

 

アプローチ1:改善による投入資源の削減

アプローチ2:革新による投入資源の削減

アプローチ3:改善による付加価値額の増加

アプローチ4:革新による付加価値額の増加

 

生産性を上げるとひとくちにいっても、上記4通りのアプローチがあり、それぞれを達成するための手段としてイノベーション(革新)とインプルーブメント(改善)の2つがある。著者は、日本企業における生産性の概念が欧米企業とは違うのだといい、日本では生産現場における改善運動から生産性という概念が普及したので、「生産性=改善的な手法によるコスト削減(アプローチ1)」が定着してしまっているという。本来は4つのアプローチがあるのに、日本企業では製造現場におけるコスト削減に集中している。ゆえに、企画や開発部門などの分野では、生産性向上が自分たちの仕事にも重要だと、認識しないままできているのだというが、本気か?俄かには信じがたい。

 

日本企業も失われた20年などと言われて久しいけれども、「日本対海外」のように二項対立的に一括りにして、日本は遅れているのように言わなくても良いのでは?と思う。何だか外国人が見た日本文化論のようで素朴すぎる。というのも1章で4つのアプローチを記述する中で、「世界と日本の違い」という表現で対立的に書かれているのだが、この素朴さは、著者がマッキンゼーという米国の外資系企業で働いていたのだし、本書の売り文句も「マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの」という副題が付いているくらいだから、致し方ないところか。私の顧客(日本企業)でもアプローチ2〜4を行っている企業はあって、特に中堅・大企業では見られるのだが、これだけ経済情勢が不安定な中にあって、改善によるコスト削減で事足りるとする日本企業ばかりではなかろうと思うが・・・具体的な企業名も挙げずに、単に日本企業は◯◯であると言われても説得力に欠ける。

 

とはいえ、アプローチ1〜4のまとめは素直に面白いし、以降連綿と続く生産性向上の具体的事例は自身の働き方を考える上で、参考になる部分はあるはずである。もう既に採用して取り組んでいるという読者には今更感は否めなかろうが。例えば、会議の時間短縮をすることが目標になってしまって、生産的な会議のあり方を問わないとか、同じように残業削減をすることが目標になってしまって、成果の達成度を問わないとか、そういったことをついついやってしまっていた読者には、蒙を啓かれた気がするかもしれない。ビジネスの現場にいる以上、たとえ定年間近であっても、遅いということはないので、もし本書でやっていることを未実施の読者は、本書を読んで直ぐ実行!である。

 

本書が今ひとつ面白く思えないのは、論理性に偏りすぎているという点である。論理性のみならず人間の感覚とか感情とかいったものも組織の生産性向上には重要な項目である。私も仕事で、組織風土改革の支援をしていると、単に論理性のみでは組織風土が活性化することはないということを実体験している。改善・革新の論理的思考のみでは、じっくりと内省して、事象の中の問題とは何か・・・そもそも問題はあるのかと思考を深化させていくことで、生まれてくる問題の発見・解決策などは見えてこない(ちょっとアクションラーニング的であるが)。そういった人間の感覚・感情といったことに本書がもう少し触れていれば☆3つでも良い。