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【書評】 美しい日本の私 その序説 著者:川端康成 評価☆☆☆★★ (日本)

 

美しい日本の私 (講談社現代新書)

美しい日本の私 (講談社現代新書)

 

 

川端康成ノーベル文学賞受賞時の講演録。川端康成というとこの「美しい日本の私」という講演録、『雪国』『古都』『山の音』といった作品の”表面的な”イメージから、日本的な美を描いた作家という気がするけれども、『雪国』を読み返してみるとどうもそうではないように思って新鮮な印象を抱いた。最近は、『山の音』を読んでいるが、これも『雪国』同様に日本的な美を描いているのかというと、全く否定はできないが、しかし私のイメージする京都とか江戸とかの美ではないし、日本文化を謳いあげている訳でもないし、一体日本的なことを描いているようではあるが、それが何なのか分からない。一度、「日本的なこと」から離れてそれらの作品を捉えてみると、人間、あるいは人間の運命の冷厳さ、孤独感などがイメージとして現れてくる。そして私はそういったイメージを感じ取ることで、作品を評価していたのだと気付く。

 

『美しい日本の私』の最後に、明恵を引用しながら自らの作品を日本的あるいは東洋的な虚空、虚無であるとする。なるほど、『雪国』や『山の音』などに通じる冷厳さ、孤独感のイメージが日本的なものに通じないと思っていたが、それは私の無知から来るもので、充分に日本的であったのか。谷崎潤一郎作品ばかり読んでいて、日本的な美に対して絢爛たるものや、雅なものを想定しがちだったが、川端が文章の末尾に「禅に通じる」というように、日本的なものの一側面として、このように虚空で、虚無で、冷厳で、孤独な、文化があったことを思う。金閣寺に対する銀閣寺のような渋味のようなものか。今さらながらに日本の美に対する奥深さに気付かされたように感じた。