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【書評】 ランサローテ島 著者:ミシェル・ウエルベック 評価☆☆☆☆★ (フランス)

 

 ミシェル・ウエルベック

 

ランサローテ島』は、フランスの小説家ミシェル・ウエルベックの短編である。単行本で60ページくらいの短い小説。

 

私は最近、野崎歓の著書を何冊か読んだ。野崎のプロフィールにミシェル・ウエルベックの翻訳作品がある。なんとなく面白そう。試しに借りてみた。そうしたら非常に面白かった。

 

ミシェル・ウエルベックは、1957年生まれのフランスの小説家である。今年60歳。長編『素粒子』が世界的ベストセラーとなり30ヶ国に翻訳出版された。『地図と領土』でゴンクール賞を受賞。その他の作品に『プラットフォーム』『闘争領域の拡大』などがあるが、2001年出版の『プラットフォーム』にはイスラム原理主義への攻撃的な描写があるそうで、同時多発テロとの関連でも同作は読まれた。

 

ランサローテ島のはじまり

 

ランサローテ島』は、男が旅行代理店のカウンターに行くところから始まる。「セックスしたいわけじゃないんです」と露骨に代理店の若い女性スタッフに言う男は、セックスについて開放的な予感を与える。実際、男はランサローテ島に行って、バイセクシュアルのドイツ人女性二人と乱行するに至るのだ。

「セックスしたいわけじゃない」って?おい、本当かよ?と、本書を読み終えた後で代理店のシーンを読むとそう言いたくなる。

 

ランサローテ島とは、私はどんな島なのか知らなかったが、モロッコ付近にある島である。スペイン領となっている。特に観光名所らしいものもなく、地震と火山噴火の被害によって文化遺産が失われたような島であるが、そういう乾ききって荒涼とした島ゆえに、男は惹かれるのである。

 

パムとバルバラ

 

ランサローテ島で、男はドイツ人女性のパムとバルバラと出会う。二人はレズビアンだが、レズビアン専門という訳ではない(なんだそりゃ)。パムはダメだけど、バルバラはまだ挿入も可能なのだとか(ばかばかしい!)。こういった滑稽な描写が連綿と続く。女性性器をストレートな言葉で発言したり、愛撫やセックスの露骨な描写などもあるが、その餌食となるのはパムとバルバラである。まるで村上春樹かと見紛うほどに執拗な性描写があるが、村上に対するような嫌悪感を私は抱かなかった。村上春樹のように気取った言葉を吐く田舎者ではないという点もあろうが、やはり、男とパムとバルバラとの性行為には、「滑稽さ」がつきまとって離れないからであろうと思っている。丁寧な性描写を見ても、エロティシズムは感じられずひたすらにファニーなのである。

 

馬鹿丸出しのいい加減な英語を使って会話するフランス人の男と、ドイツ人女性二人。「英語はいつだって少しばかり苦手で、三つも文章を並べるともうお手上げ」の連中。率直に女性の体に触れて、反応を確かめる男。知的でもなければ気の利いたことも言えない、ましてや金持ちですらない男に、なぜか身を任せるバイセクシュアルのドイツ人女性二人。このナンセンスさに、私はページを繰る手を止められなかった。

 

ベルギー人のリュディ

 

ランサローテ島』にはもう一人の登場人物がいる。ベルギー人のリュディである。リュディはランサローテ島で、主人公やドイツ人女性二人と行動を共にするが、女性とはセックスしない。代わりに、カルト宗教の信者となって、のちに逮捕されている。

 

カルト宗教では、信者が自由な性関係を謳歌しており、信者の少女に性的関係を強いたり、近親相姦に至る信者たちもいる。リュディはモロッコ人の少女と性関係を結んだ。彼はかつて、モロッコ人女性と結婚しており子までもうけたが、女性はリュディを捨ててモロッコに子とともに帰国してしまった。

 

リュディは、モロッコ人の女性に対する執着が現在でもあるのだろう。モロッコ人の少女に性関係を強いたかどで訴えられている。

 

野崎歓は解説で、『ランサローテ島』は観光旅行が現代の西欧の人間にとって「どのような欲望の装置」となっているかを描いた作品だと言う。主人公の男、パムとバルバラ、そしてリュディ等は全て、観光旅行をして「欲望の装置」たらしめている。そこには常に滑稽さがつきまとっているのだが、欲望とは果たして、そういうものなのかもしれない。

 

このナンセンスさ、滑稽さ、ばかばかしさ、露骨な性描写等は、魅力的である。