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【書評】 営業の心理学 売れすぎて中毒(ヤミツキ)になる 著者:神岡真司 評価☆☆☆☆★ (日本)

売れすぎて中毒になる 営業の心理学

売れすぎて中毒になる 営業の心理学


顧客に、新規開拓をしない営業がいるという。恐らく、人事評価制度がうまくいっていないのだろうが、顧客には、社外の人間に制度設計を依頼する文化がない。外部に依頼するのはあくまでも研修だけだ。しかし制度設計の仕事が取れないからといって手をこまねいている私ではない。

だから私はせめて、「営業向けのレクチャーをさせてもらえませんか?」と言ったら、「私どももそう思っていたんです」との返事。まるで両思いのようじゃないかと有頂天になった。

営業本は面白い


そういう訳で、私は営業担当向けのレクチャーをすることになった。といっても私は営業マンではない。そんな人間が営業向けのレクチャーをするって?ちょっと無謀にも思える。

ただまあ、コンサルティングをしていると、やったことがないことをやることもある。レクチャー用にいくつか本を読んだが、良かったのだけ紹介する。今回の『営業の心理学』である。

あとは、『営業』というタイトルの本だ。どストレートで奇妙なタイトルだが、副題には「野村證券伝説の営業マンの「仮説思考」とノウハウのすべて」とあるので、副題の方がキャッチーかもしれない。

営業 野村證券伝説の営業マンの「仮説思考」とノウハウのすべて

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最近買った『LINE@”神”営業術』『コストゼロでも効果が出る!LINE@集客・反則ガイド』というのも面白そうなので、読んでみるから、時間があったら紹介するぜ。


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新規開拓がうまくいかない人のための本


本書はどんな人向けか?

帯を見ると、「トップセールスの人は、どんな心理テクニックを使っているのか?」とある。そして、そのコピーの隣には、営業がいかにも困ってそうな事例が羅列されている。

テレアポでガチャ切りされる
飛び込みをしても、無愛想に追い返される
雑談が苦手で、会話が続かない
他社製品より自社製品のほうがいいのに説得できない
あとちょっとのところで、いつもクロージングがうまくいかない


いわゆるルート営業向けの本ではないことが一目瞭然であろう。むしろ新規開拓がうまくいかない営業担当向けの本である。「新規開拓をしない営業向け」ということでいえば、確かに本書は適切である。

ザイアンスの法則


本書にはいくつかの心理学が紹介されているが、繰り返し触れられるのが「ザイアンスの法則」だろう。この概念はアメリカの心理学者ロバート・ザイアンスが提唱したものである。本書では以下のように紹介されていた。

1 人は、知らない人には攻撃的、批判的、冷淡に対応する。
2 人は、会えば会うほど相手に好意を持つ(単純接触の効果)。
3 人は、相手の人間的側面を知った時、より良い好意を持つ。


例えば法則「1」。

なるほど。人間は見知らぬ相手には冷淡に対応するものなのだ。だから、営業が、「顧客に冷淡に扱われた」と言って嘆くのを見て「大変だよな」と、飲み屋で同情するのも良いが、一方ではそういう扱いを受けるのは、当たり前のことなのである。

こういう理論を知っているだけで、安心しないか?私が営業なら安心する。
「なんだ、当たり前の扱いを受けただけだったのか」って。

だからって「馬鹿野郎!二度と来るんじゃねえ」と、残飯を漁る野良犬を追い払うように怒鳴られたら、誰だって嫌な気持ちにはなる。しかしそれでも、ザイアンスの法則「1」を知っていると知らないとでは、気持ちの落ち込み方も違うだろう。

それに、今度紹介予定の『営業』では、営業は確率の世界だと書いてあった。つまり100件回って、1件の仕事が取れることが分かっていれば、怒鳴られようが無視されようが、確率のひとつに過ぎないということである。ザイアンスの法則と並んで、面白い考え方だろう。

相手に親切に応じてもらうには?


見知らぬ人に、冷淡に接するのは分かった。それでは、相手はどういう時に親切に応じるのだろうか?本書では次のように書く。

「人間の行動原理」には、「利得最大化」「返報性」「共通項・類似性」「社会的証明」などがあります。


つまり顧客は、損するよりも得をしたいし、親切には親切で返したいし、共通項があると共感しようと思うし、皆が「良い」と支持するものを支持するのである。だから、新規開拓の際には、顧客が得をできるような提案(利得最大化)をしたり、売りたい商品が市場でどのように評価されているかなどの情報を提供(社会的証明)したりするべきなのだ。

人の心理がこのようなものであると知っていると知らないとでは、新規開拓営業に対するスタンスが違ってくるだろう。

(どうでも良いが、ザイアンスの法則は恋愛にも応用できると思うので、そっち方面で使ってみても良いと思う…笑)

喋るのをやめて質問する


私が「嫌だな」と思う営業のタイプが「しつこい営業」である。恋愛と同じなのだが、「嫌い」とか「苦手」と思ったらもう、その人を好意的に思えないのである。ザイアンスの法則「2」では、「人は、会えば会うほど相手に好意を持つ」と書く。逆にいえば会えば会うほど相手に嫌悪感を持つこともありうるが、これがまさに私が例示したことと一致する。

本書でも、営業は喋りすぎるなと書いている。むしろ、顧客の「隠されたニーズ」を引き出すために「質問せよ」と書く。ただし、どんな質問でも良い訳ではない。例えば「御社の従業員数は何名ですか?」などというような質問をされると、豊田真由子のように怒鳴ってやりたくなるが、企業の会社概要を見れば誰でも分かるようなことを質問してはいけない訳だ。

ある程度の情報を用意した上で、こういう質問をすると企業が「おっ!」と思うだろうなという質問をすることが肝要だ。いくつも質問をしていくと「実はね…」という、顧客の隠されたニーズを引き出せるというのは、興味深い。

数字のマジックを使い倒す


最後に紹介するのが「数字のマジック」。本書では以下のように書いている。

※「タウリン1000mg配合」の栄養ドリンクは、タウリンがたったの1gの配合です。
(略)
※「本日は50人に1人、お買い上げ料金が無料」は、たったの該当者2%にすぎません。
(略)

いかに普段、我々が数字に騙されているかを物語るものだが、しかしこういったマジックに騙されるのが私たちなのだから、使わない手はないだろう。


こんな感じで、面白い心理学の用語を用いながら、どうやったら営業がうまくいくかということが書かれているので参考になった。