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【書評】 「トランプ時代」の新世界秩序 著者:三浦瑠麗 評価☆☆☆☆★ (日本)

「トランプ時代」の新世界秩序(潮新書)

「トランプ時代」の新世界秩序(潮新書)

政治学者・三浦瑠麗

三浦は1980年神奈川県生まれで、東京大学で農学を学んだ後に東大院で公共政策や政治学を学んで法学博士を取得。理系から社会科学に進んだがそれが合っているのだろう。リベラルを自任。現職は東京大学政策ビジョン研究センター講師。

私が政治学者の三浦瑠麗を知ったのは昨年の正月のことだ。テレ朝の「朝生」を見ていて、着物を着ていた三浦が出ていたのを知ったのだった。目鼻立ちがはっきりしていて、見ようによっては美人に見えなくもない・・・という印象だった。

マスクをしていたらドキドキしそうだと思うのと、彼女の冷静な喋り方はちょっと好きかな(笑)まあ、西川史子が美人医師と呼ばれてしまう世の中だから、西川よりは明らかに綺麗な三浦は美人学者と呼ばれるのだろう。あまり同意はしないが。

トランプ大統領誕生後の世界を冷静に分析した好著

実は私は、本書の前に三浦の『シビリアンの戦争』という本を途中まで読んでいて良い本だなぁと思っていた。文章を書く才能に恵まれている。
ただ、同署は、読了せずに図書館に返却したのでレビューには載せていない。最後まで読みたいので借りようと思ったら借りられている。じゃあ他の本にしようかと思っていると本書が目に留まる。それで本書を借りて読んでみると、『シビリアンの戦争』ほどではないが面白かった。

シビリアンの戦争――デモクラシーが攻撃的になるとき

シビリアンの戦争――デモクラシーが攻撃的になるとき

トランプ大統領がなぜ誕生したのかから始まり、感情論に走り過ぎることなく、書物に依存し過ぎることなく、特定の思想に偏向することなく、冷静に「トランプ大統領誕生による新しい世界」について分析している。ジャーナリストのようにアメリカに行って取材した文章は現実に迫る緊張感があった。

トランプ勝利の要因

2016年に、アメリカでトランプ大統領が誕生したのは記憶に新しい。その要因を著者は3つ挙げている。
3つ目の「トランプ現象」については、著者は、保守的なレトリックを用いて中道の経済政策を語ることだと言っている。トランプは保守的な発言をしながらも、従来の共和党候補では言えない政策を公約にしていると言うのだ(高齢者福祉については不可侵、公共事業の大盤振る舞い等)。


・トランプを指示した白人層の投票率が大幅に上昇し、マイノリティの投票率が伸び悩んだこと
世論調査が人々の本音を反映していなかったということ
・トランプ現象の核心を理解できなかったこと


選挙終盤では日本でも報じられているようにトランプの女性差別発言などが取り上げられたが、著者は「トランプ氏は、保守層や白人層を中心にかなりの女性票も集めています」と書いている。

トランプ氏は、保守層や白人層を中心にかなりの女性票も集めています。
思うに、トランプ氏が女性差別主義者であることは、有権者はすでに織り込み済みだったのではないか。それは、現代のアメリカ社会を反映しているにすぎないわけで、リベラルを気取っている識者の中にも、女性差別主義者はいくらでもいます。

トランプが女性差別主義者であることを、アメリカの有権者が織り込み済みという観点は面白い。織り込み済みなら、特に驚くには当たらない訳だ。

足を使って真実に迫る

本書には、著者がアメリカに自ら足を運んで取材した事柄がいくつも出てくる。あたかもトランプ勝利の要因の2つ目「世論調査が人々の本音を反映していなかったということ」の裏付けるかのように、統計データだけではなく自らの感覚を使って、トランプ大統領誕生の背景や、なぜヒラリー候補が勝てなかったのか等を取材をして見ていく。まるで社会学のフィールドワークのよう。

ジャーナリスト顔負けのスリリングな緊迫感があり、統計データは重要ではあるが、物事を深く掘り下げて知ろうとするには、統計に依存するだけでは不充分であることを知れる。政治という社会科学の分野は、数学のように合理的に割り切れるものではないので、真実を知ろうとするには人間の生の声を取材することも必要である。時には、統計データを疑ってみることが必要で、本来、政治には統計と取材の両面性が重要なのであろう。

人種レトリック疲れ


私はオバマがアメリカの大統領になった時、気分的に不安を感じた。というのは、彼は恐らく、「自分は黒人ながら大統領になれた」と言うだろうと思ったからだ。特段に黒人に対する偏見を持っていないはずの私だったが、オバマがこう語ると嫌な感じがした。

そしてオバマは確かに、ことあるごとに「自分は黒人ながら大統領になれた」と言っていたようだった。なぜ気分的に不安を感じるのか、さして考えもしなかったがずっと心にはひっかかっていた。

著者は、いみじくも本書の中で、オバマが「自分は黒人でありながらアメリカ大統領になった」ことを書いている。

そして、著者は、本来人種問題とは言えないはずの問題が、なぜか人種問題に仕立て上げられていくという現象が頻発することに対する人々の嫌気を、「人種レトリック疲れ」と表現する。ああ、なるほど。私の気分的な不安はこれを指してるのか。

白人の警官が黒人の犯罪者を撃ち殺すと、それだけで人種問題となる。

すると白人は「自分は悪い白人の側にいる」とラベリングされたような気になり、黒人も「オレたちは白人に危険視されている」あるいは「虐げられる弱者だ」と認識しがちです。

だからトランプの人種差別的発言が良いとは著者は書いてないが、ただ、アメリカ国民が人種レトリックに疲れているのだろうとは言っていた。確かに、著者が別の個所で書いたように人種問題がビジネスにさえなっているアメリカ社会では、人種レトリックは、確かに人々を疲れさせる言説であるのは理解できるところだ。

日本にできること

著者は本書の中で、アメリカは日本を守らないかもしれないと言う。トランプ大統領の発言を聞いているとその可能性があるように思える。それでは、日本にできることは何なのか。

平和はカネだけで解決できるものではないと言い、日本はアメリカにとってどういう同盟国か、自分たちがどういう国でありたいのか、をしっかり考えるべき時に来ていると著者は言う。アメリカが今すぐ日本から軍を撤退することはないが、核の傘で安穏とし続けられない可能性があるのであれば、確かに日本は自立する国家としてのアイデンティティを考え直さねばならない時期に来ているというのは、間違いなさそうだ。