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【書評】 日本に絶望している人のための政治入門 著者:三浦瑠麗 評価☆☆☆★★ (日本)

コンパッションの価値観をもとに

本書『日本に絶望している人のための政治入門』は、政治学者・三浦瑠麗の政治評論である。『「トランプ時代」の新世界秩序』が良かったので読んでみたが、本書もなかなか面白かった。研究者としての成果は知らないが、政治評論の分野では、本人の文章作成の手練もあいまって、完成度の高い仕事をしていると思った。

冒頭に、自分の政治に関する思想を貫くものは何か?と自問したうえで、著者は「コンパッション」が重要だと言う。コンパッションとはどういう意味かというと、「ともに苦しむ」ということである。「寄り添って同情するだけではなく、もう少し大きな全体最適に向けて考える」価値観である。このコンパッションをもとに、本書は書かれている。著者はコンパッションについて次のようにも書く。

私のコンパッションとは、いわば積み重ねられた絶望感の上でにやっと成り立ったものであって、憎しみや怒りを超えてようやっとたどり着いた戒めのようなものです。犠牲になり、踏みつけられた者たちの存在に目を向け、怒りを乗り越えたところから出た言葉でなくては、コンパッションというのは浅い言辞にすぎません。恵まれた高みから、愛や、共感や、犠牲を語ってはいけないのです。

まるで熟達したエッセイストの文章のようではないか。

コンパッションの偏在が欲しいところ

残念だったのは、コンパッションの価値観をもとに書き始められてはいるものの、コンパッションという価値観が本書に偏在していないことだった。ところどころに、まるで思い出したかのようにコンパッションが顔を出すが、本書全体を貫いてはいない。現代日本政治や国際情勢について著者なりの見解を打ち出すところに主眼が置かれているので、コンパッションはしばしば脇に追いやられている。タイトルも『現代政治に必要な「コンパッション」の思想』とか、そんな風にした方が良くはないか?と感じられた。その上でコンパッションで本書全体を貫けば、個性的で明確なメッセージ性を打ち立てることができただろう。こういうところが奏功したのが『シビリアンの戦争』なのだろうが。

米軍撤退の可能性にも言及

オバマ大統領をレトリックと紐づけて論じるところは、『「トランプ時代」の新世界秩序』と同様で、言語化の巧みさを感じた。また、米軍撤退の可能性についても言及していて、『「トランプ時代」の新世界秩序』ほどではないが、英国の歴史や米国の民主主義政策に基づいた「レトリック」を弄して慧眼だと言える。沖縄を中国や韓国も使用する「アジアのハブ」にという意見には賛同できないが…

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