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【書評】 仮説思考 BCG流問題発見・解決の発想法 著者:内田和成 評価☆☆☆☆☆ (日本)

仮説思考 BCG流 問題発見・解決の発想法

仮説思考 BCG流 問題発見・解決の発想法

「仮説思考」のエッセンスを実践的に伝えている

著者の内田和成は、2000〜2004年までBCG(ボストンコンサルティンググループ)の日本代表を務めた。その他早稲田大学商学学術院教授(初版当時)。

本書『仮説思考』は、仮説思考のエッセンス、そしてその実践方法について、学生が読んでも理解できるように平易な言葉で書かれている。理論を披歴するに留まらず、ビジネスの問題解決の場で、仮説思考を実践することの重要性を説く。一朝一夕で仮説思考が身につくものではないので、あたかもスポーツの練習のように鍛錬を重ねること。ゆえに、社会に出る前に読むのも良いが、ぜひ就職した後にこそ、本書を読んで実践した方が良いだろう。

多くの情報を集めても正しい答えが出るとは限らない

仮説思考は問題解決の現場で力を発揮する。例えば、仕事上で何らかの問題が生じた。その問題を解決する時、ビジネスパーソンはどのような方法で意思決定をするのだろうか?

多くの情報を収集して決定するか。

あるいは、わずかな情報で決定するか。

確かに多くの情報があった方が意思決定に役立つように見える。しかし多くの情報を収集するには時間がかかる。著者は多くの情報を収集することの非効率性について次のように書いている。

情報収集しているうちにどんどん時間が過ぎていき、結局、肝心の意思決定は「エイヤーッ」でやらざるを得なくなったり、いざ物事を決める段階になって、必要なデータがそろっていないことに気づいたりする。要するに、あらゆる情報を網羅的に調べてから答えを出していくには、時間的にも資源的にも無理があるということである。

特にビジネスの世界は速度が速く、情報を網羅的に調べた上で意思決定しても、既にその決定事項が使えないことがある。つまり鮮度が古くなり、使いものにならなくなっているのだ。

仮説思考を用いて最短で解を求めよ

情報を網羅的に調べて意思決定しても、その決定事項が使えないことがある。むしろ、そもそも網羅的に調べること自体、現実的には難しいといえる。では、どうしたら良いのか。

著者は、ビジネスの問題解決においては、「仮説思考」という思考法を用いるべきだという。「仮説思考」とは「物事を答えから考えること」。あるいは、「ベストな解を最短で探す方法」のこと。仕事の進め方でいえば、「課題を分析して答えを出すのではなく、まず答えを出し、それを分析して証明するのである」と書く。

仮説は検証し、進化させていく

仮説は間違っていても構わない。むしろ間違いを恐れるがゆえに、情報収集に走って時間を浪費することこそ、慎むべきである。仮に仮説が誤っていたとしても、間違いに早く気づけば立て直しができる。しかし、延々と情報収集に勤しんでいて時間を空費し、結果、意思決定をした時に既にその決定事項が使いものにならなくなっていた…ということに比べたら、早い段階で間違いに気づき、立て直せた方が良い。

仮説は、正しいのか、誤っているのかを検証する。そして仮説を進化させていく。著者は、検証の手段として「実験」「ディスカッション」「分析」の3つを挙げていた。そして検証の結果、仮説を進化させていけば良い(進化させていけば良いというのは、最初に立てた仮説が必ずしも正しい仮説ではないからだ)。

どんな意思決定が良いか?多くの情報を元に分析して、その分析結果を元に意思決定をしていては遅くなる。それよりも仮説思考を用いて仮説・検証を繰り返し、より早く、正しい意思決定に持ち込むこと。他の人が情報収集に右往左往している間に、仮説思考を実践している人は、さっさと仮説を立てて検証し、掘り下げ、それを進化させていく。おのずと、その人の仕事のスピードは早くなることだろう。

多くのビジネスパーソンに共通する「仮説思考」

本書は副題にあるように、コンサルタントとしての実践を元に書かれたビジネス書だ。仮説思考の啓蒙書といっても良い。ビジネスパーソンなら、誰だって仕事の問題はある。問題のないビジネスパーソンはいない。たとえ新卒だって問題は抱える。そんな時にこの仮説思考の考え方は大いに参考になろう。

繰り返すが、仕事の問題解決に取り組む際に、多くの情報を収集してから、「さあ、意思決定しよう!」というのでは、もはや時すでに遅し、となっていることがある。それに、そもそも、情報を網羅的に収集することなどできないのだ。情報を網羅しているように思い込んでいるだけなのである。

それよりも、仮説思考を用いて、短期間で仮説を立てて検証していった方が、早く解にたどり着ける。意思決定の際にもスピード感があり、本質的な意思決定ができる。これを大いに活用しない手はない。非常に良い本だ。著者の文体も、知的な意匠はひかえめに、コンサルタントとしての経験による自信により、読者に「仮説思考」を実践させる力を持っている。