好きなものと、嫌いなもの

書評・映画レビューが中心のこだわりが強いブログです

【書評】 データ・ドリブン・マーケティング 最低限知っておくべき15の指標 著者:マーク・ジェフリー 評価☆☆☆☆★ (米国)

データ・ドリブン・マーケティング―――最低限知っておくべき15の指標

データ・ドリブン・マーケティング―――最低限知っておくべき15の指標

Amazon社員の教科書『データ・ドリブン・マーケティング

アメリカの実業家・経営学者・コンサルタント、マーク・ジェフリーによるデータ・ドリブン・マーケティングについての啓蒙書。本書は、アメリカ本国では2010年に発売され好評を博した。AmazonのCEOジェフ・ベゾスが選ぶビジネス書12タイトルに選出されたこともあるという。Amazon社員の教科書と宣伝されることもあるくらいだから、同社ではよほど浸透しているのだろう。

日本では昨年、2017年にようやく翻訳出版された。私が本書を知ったのは池袋のジュンク堂書店だった。マーケティング関連の本を探していたら、本書が平置きされていたのである。タイトルが目を引いたのと、データを使ったマーケティングに少し関心があったので、手に取ったのだった。

データ・ドリブン・マーケティングって?

データ・ドリブン・マーケティングとは、データ分析に基づくマーケティングのことである。フォーチュン500社の業績上位20社に共通するのは、このデータ分析に基づくマーケティングを使って意思決定しているということ。いうなれば、データ・ドリブン・マーケティングを活用しなければ市場では勝てないというのが著者の主張である。

データ・ドリブン・マーケティングを活用している企業と、そうでない企業との間には「マーケティング格差」があると、著者は明言する。それは、本書の冒頭から刺激的な数値を使って説明される。しかし、疑問に思うのは、なぜマーケティング格差が生じてしまうのか?ということと、データ・ドリブン・マーケティングに基づいた意思決定ができないのか?ということだ。著者はその原因を、次のように書いている。

私の経験上、多くのマーケティング担当者は大量のデータに圧倒され、成果を向上させるための効果測定についてはどこから手をつければよいのかがわからない、という状態にある。加えて、55%の管理職が自分の部下はNPVやCLTVといった指標を理解していないと回答している。

経験といわれてもちょっと根拠に乏しいが、データをどう活用するかが分からない状態で、大量のデータを前にすれば、確かに足がすくむ思いはするだろう。データ・ドリブン・マーケティングを活用した意思決定ができていない企業でも、本書の15のマーケティング指標を知れば、データの前で足がすくんでマーケティング格差に苦しむこともないんだとか。

マーケティング格差の実態

著者は、マーケティング格差の実態を調査した。それにより、次のことが分かった。業績上位企業はマーケティングにかける投資の総額も違うし、投資の対象も、業績下位企業とは異なるということである。

・業績上位企業のマーケティング費用は、平均の20%上回っている
マーケティングにカネをちゃんと使っている)
・業績上位企業は、下位企業に比べて、需要喚起にはそれほどカネを使わない
(下位企業が58%使うところ、上位企業は48%に留めている)
・業績上位企業は、ブランディングCRMにもカネを使っている
(上位企業は、合計27%使っているのに、下位企業は18.5しか使っていない)
・業績上位企業は、マーケティングインフラにしっかりカネを使っている
(下位企業が10%しか使っていないのに、上位企業は16%使っている)

野放図にマーケティングに投資するのではなく、投資すべき対象を見極めて投資すべきだということなのだろう。ただ、マーケティング費用にかける投資の総量については、多くかけるべきなのだろう。

15の指標〜正味現在価値が面白い〜

15の指標については、個々に紹介することは割愛するけれど、私が特に面白いなと思ったのは「7.正味現在価値(NPV)」と「10.顧客生涯価値」である。

まず正味現在価値から。

よく経済学でもやるけれど、今日の1万円と、1年後の1万円って価値が違うよねっていう問題。これが本書では現在価値という概念で使われていて、式で書くとイメージが付くが、面倒なので本書の146ページを読んで欲しい。要は、1万円の現在価値は、1年あたり(1+r)倍になる時間価値の分を割り引くことで、計算されるというものである。

これをマーケティング費用を使って応用したのが「正味現在価値」である。考え方は現在価値と同じで、当初はマーケティングの「初期費用」だけ発生する。あとは、1年ごとに、「売り上げ」から「マーケティング費用」をマイナスしていき、「現在価値」同様に、(1+r)倍の時間価値の分を割り引いていくというものだ。だから、将来の利益は現在の利益よりも価値が低い、ということになる。

これをデータ・ドリブン・マーケティング的に使うと、「正味現在価値」の値がプラスならば投資を実行できるし、もしマイナスなら投資を止めよう、という意思決定ができる。

15の指標〜顧客生涯価値が面白い〜

顧客生涯価値も面白い。これについては章をまるごと割いて説明している。

これも、上の「正味現在価値」と同じ考え方である。顧客の「正味現在価値」という訳だ。企業を経営して得られる「顧客データ」を活用して、意思決定を行う。マーケティング格差がある企業だって「顧客生涯価値」をうまく使えば、格差を乗り越えていける!そうな笑

「顧客生涯価値」については、セインズベリー、3M、コンチネンタル航空など多くの企業事例を用いて説明されていて、納得感が強かった。他の指標についてもこれくらい事例があると良いのに、と思ったくらいである。

まとめると

15の指標については第2部をまるまる使っていて、お腹いっぱいになるくらい丁寧な説明があって良い。読者が紙と鉛筆を使って、「事例研究」を一緒になって行えば、マーケティングドリル(?)を解いているみたいで楽しい。著者の経験では…という語り口が少々気になるところだが、事例は豊富だし、根拠は明確なのだろうと思う。私はマーケティング担当者ではないが、マーケティングには関心がある。そういう人は、一度、手に取ってみると結構引き込まれてしまうはず。私も電車の中で夢中で読み、降車駅を間違えたことは数知れず…ジェフ・ベゾス恐るべしって違うか。マーク・ジェフリー恐るべし、か。

ちなみに、本書をいきなり読むよりも、牧田幸裕の『デジタルマーケティングの教科書』を読んでから本書にとりかかった方が、理解は早いと思う。

デジタルマーケティングの教科書

デジタルマーケティングの教科書