【書評】 研修開発入門「研修転移」の理論と実践 著者:中原淳ほか 評価☆☆☆★★ (日本)
- 作者: 中原淳,島村公俊,鈴木英智佳,関根雅泰
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2018/06/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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今すぐ「やりっぱなしの研修」をやめよう
研修転移というと専門的で耳慣れない用語という感じがする。しかし企業で人材開発の仕事に携わる者にとっては、身近な用語で、むしろ実践的でリアルな問題を捉える用語といえる。本書の定義でいうと以下の通りとなっていた。
研修で学んだことが、仕事の現場で一般化され役立てられ、かつその効果が持続されること
要は、研修を研修単独で終わらせない、やりっぱなしの研修ではない、研修を仕事の現場で役立つようにするということだ。研修が研修で終わってしまって、仕事に上手く結び付かない。研修を受けた効果が分からない。受講者による研修の評価が低い。企業の人材開発担当者は悩む。どうしたら良いのか。人材開発担当者は皆、多かれ少なかれ「研修の効果」について考えている。
本書は、「研修転移」という人材開発担当者にとって重大な心配事について、正面から取り組み、理論と実践について簡潔に押さえている。本書はあくまでも研修転移に関するイントロだから、網羅的に研修転移のことが分かる訳ではない。しかし、研修で学んだことが仕事に役立ち、その効果が持続することの重要性はよく分かるし、人材開発担当者の中で、研修転移について考えても上手くいかず落胆している者があったら、本書を読めば元気づけられることだろう。さあ、本書を手に取り、今すぐ「やりっぱなしの研修」をやめよう。
日本では研修転移に関する言論が少ない
著者の1人中原淳は経営学者である。彼は本書の冒頭で、日本においては書籍や論文で研修転移について書かれた例は極めて少ないと書いている。驚くべきことだ。人材開発担当者が、どうしたら研修の効果が仕事でも持続されるかに悩んでいるというのに、日本の経営学やビジネスの言論においては、言及されないというのだ。日本では、書店に行くと「研修をいかにデザインするか、研修で教えるべき内容をいかに精錬するか」などという書籍はあるが、研修転移に関する言論は限られているという。
研修転移を実践した企業の事例は研修を内製化する上で参考になる
研修転移を実践した企業の事例は、本書の第2部に載っている。各企業の研修内容を併記したが、やりっぱなしの研修ではなく、業務に成果を与える研修という感じがするのではないか。
・ファンケル
「反転学習」を軸とする研修の内製化
・ヤマト運輸
ブロック長・支店長ペア研修(研修内容が現場の問題解決に直結)
・三井住友銀行
実践を組み込んだ研修プログラム
・ニコン
指導員制度による新入社員育成
私は、組織人事コンサルティングをやっているので、研修のプログラムを開発したり講師を担当したりする。だから研修は飯の種なのだが、研修は内製化でも良いと思っている。コンサル会社は研修以外のところで稼いだ方が良い。社外講師じゃないと指導できないというのは、需要としてはあるんだろうが、人材そのものの不足か、社外講師がやるべしという人事の方針なのか、あるいは人がいるのにできない場合は人材開発部門の怠慢によるところである。別にコンサル会社や研修会社に依頼しなくても、人材開発チームが本書みたいなビジネス書や経営学の本を読んで勉強すれば、研修は内製化できるはずなのだ。だから、研修転移の理論と実践を扱う本書は参考になるはず。