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【映画レビュー】 バリー・シール アメリカをはめた男 監督:ダグ・リーマン 評価☆☆★★★ (米国)

危険度の高い仕事

バリー・シールという、CIAに雇われたパイロットの物語。事実に基づく物語となっている。主演はトム・クルーズ、監督はダグ・リーマンである。リーマンは『ボーン・アイデンティティー』や『Mr.&Mrsスミス』などのアクション映画の監督として知られる。トム・クルーズとは『オール・ユー・ニード・イズ・キル』という映画でタッグを組んでいる。同作は日本のライトノベルが原作だった。

本作は、大手航空会社TWAでパイロットとして働くバリー・シールが、安定した地位を捨てて、CIAに雇われて偵察任務に就き、その渦中でメデジンカルテルの麻薬密売の仕事を請け負うなどリスクの高い仕事をするようになるという物語である。CIAでの仕事がニカラグアの反政府親米組織コントラに武器を密輸するようになったり、コントラに密輸するはずの武器をカルテルに売るなど、シールの仕事は加速度的に危険度を増していく。そしてバリー・シールの背後には徐々に破滅が忍び寄っていくのだった。

トム・クルーズの若々しい演技は映画に合っていたのか

トム・クルーズは明るく清潔にバリー・シールを演じている。小柄なトム・クルーズは小汚いシャツを着こなし、小悪党を爽やかに演じてみせた。この爽やかさは格別で、トムは飛行機に乗るシーンが多いのだが青年のように見えるので、出世作トップガン』を思い出させるほど。ビデオで自撮りしてメッセージを録画している姿には、デート前かアマチュアバンドのコンサート前かのような可愛らしさがある。五十を過ぎているのに、この爽やかさ・若々しさは貴重であろう。単に身体を鍛えているだけでは、ここまでの若々しさは保てまい。

トム・クルーズの若々しい演技は、しかし、この映画には適していたのか?という疑問も湧く。私はトム・クルーズのファンだけれど、もう少々、彼の演技には狡猾さが表れても良かった。

安定した地位を捨てた理由が不明

本作は演出が今ひとつで、バリー・シールがなにゆえ安定したパイロットの職を捨ててまでCIAや密売の仕事に手を染めたのか分からなかった。元から金に貪欲だったのか、パイロットとして働く過程で金に執着するようになったのか(パイロットは高給のため)、説明が不足していて分からない。だから、映画と見る者との間の距離は開いたままでなかなか溝が埋まることがなかった。バリー・シールはルーシーという妻を愛しているのだが、彼女は金を夫に無心する訳でもなかったし、むしろ安定的なパイロットの妻としての地位に満足しているようだった。いったい、バリー・シールはなにゆえ安定した生活を捨てる必要があったのか不明なのだ。

だから彼が映画の最後で死んでも衝撃を受けることはないし、安定した生活を捨てる理由がないままに行動していくバリー・シールの姿に、理解を示すことができないまま、映画のエンドロールを迎えた。