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【映画レビュー】 ゲット・アウト 評価☆☆★★★ 監督:ジョーダン・ピール (米国)

評論家受けが良い『ゲット・アウト

ゲット・アウト』はジョーダン・ピール監督のスリラー映画である。ピール監督はコメディアン出身者である。映画評論家の町山智浩は『ゲット・アウト』をコメディだと言っていたが、私にはコメディとは思えなかった。終盤の暴力描写がチープなので笑ったが、それは監督の意図するところでもあるまい。

ゲット・アウト』は評論家受けが良い映画で、Rotten Tomatoesでは評論家支持率が99%だったそうである。また、脚本も手がけたピール監督は、第90回アカデミー賞にて脚本賞を受賞している。権威のお墨付きを得た訳である。

私は評論家受けが良いという側面は、鵜呑みにはしないようにしてきた。なぜなら、評論家受けが良いという側面は、参考程度に留めるべきだと思うからだ。つまり評論家が良いという映画が必ずしも面白いとはいえないからである。映画は芸術だから、感覚的に受容するものである。誰がどう言おうと面白いものは面白いし、退屈なものは退屈なのである。権威が人の感性に影響を与えないことはないだろうが、だからといって評論家が絶賛した映画が即、面白い映画とはいえないだろう。そして『ゲット・アウト』は私には退屈だった。

黒人の肉体への強い憧憬と、深い黒人差別

ゲット・アウト』はどういう映画か。黒人差別を題材にしたスリラー映画である。主人公・写真家の青年クリスは、白人の恋人ローズに家に招かれた際に「家族に俺が黒人だって言っている?」と確認するような、黒人差別に敏感な男である。この設定は映画が黒人差別を題材にしていることを明示する。ローズ家に行き、自然に振る舞うクリスだったが、黒人の使用人がいて、彼らの態度に違和感を覚えると、徐々に不安になっていく。そしてローズの母の催眠術により、監禁されてしまう(この催眠術というのが鈍臭くて私は黒沢清の『クリーピー』を思い出した)。

クリス監禁後、ローズ家の住人、そして町の住人は、皆、黒人の肉体に強い憧れを抱いていたことが判明する。白人たちの脳の一部を移植し、黒人の肉体を手に入れていたのだ。しかも、白人たちは黒人への肉体を憧れているとはいえ、人種差別の感情は強く持っている。象徴的なのは、ビンゴゲームだ。ビンゴゲームの商品はクリス。まるで黒人の奴隷売買のような設定なのである。私は、この『ゲット・アウト』という映画は退屈だったが、終盤の陳腐な脱出劇でそう思ってしまったのであって、「黒人の肉体への強い憧憬と、深い黒人差別」は良い設定だったと思っている。

ゲット・アウト』という映画は、「黒人の肉体への強い憧憬と、深い黒人差別」という設定は良いのに、アクションとサスペンスがつまらなかった。心理に迫るような恐怖は描けていなかったし、怖いなと思ったのは、冒頭で、車にシカが衝突した時くらいであった。これではスリラーとして及第点はあげられない。

主人公クリス役の俳優の演技は悪くない。また、ローズ役のおねえちゃんなんかは知的でかわいくて私好みだった。

終盤の陳腐な脱出劇

クリスは耳をふさげば催眠術の影響がないだろうと考え、捕えられていた椅子からはみ出していた綿を耳に詰め込む。クリスを手術台へと運ぼうとしたジェレミーの不意を突いて倒す。ここからは多少の残酷描写も交えたアクションシーンが続く。クリスはアクション映画のスターのように、住人を倒していく。ただの写真家の青年なのだが、ずいぶんと腕っ節に自信があるようだ。

クリスがとにかく強く、誰も敵わない。彼が住人に痛めつけられるシーンはあるものの、アクション映画さながらに勝ってしまう。リアリティのある描写をしたいのか、架空の描写に留まりたいのかよく分からないのだが―――とにかくクリスが強くて、私は興醒めした。腕のひとつでももぎ取られれば、住人とクリスとの間で凄絶な戦闘が生じたと思える訳だが、身体に強烈な痛みを受けるシーンがない。血は流れてはいるのだが………

最後は恋人ローズを運良く倒して、ハッピーエンド。黒人の友だちが運転する車で帰宅するという、なんとも平凡な結末だった。住人で最後まで生き残るのはローズなので、ローズに殺されてしまったらもう少し評価を上げても良い。あるいはクリスがもう少し身体に痛みを受けてくれれば。