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窪塚洋介という狂った俳優への賛辞

レトロなゲームの中の窪塚洋介

窪塚洋介という俳優を初めて見たのは、映画ではなかった。セガサターンという古いゲーム機で出た『街』という実写ゲームに、彼は出ていた。『街』での窪塚洋介はテレビのAD役で、上司にこき使われるサギ山勇という、ふざけた役名の若者を演じていた。

実写といっても動画ではなく画像なので、演技といっても映画を見るように動きを捉えることはできない。ゲームの音楽と、テキストによって、ストーリーは展開されていく。窪塚はそこで脇役ながらも光るものを放っていた。それはテレビに映る彼の存在感だった。

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『GO』で批評家からの評価も獲得

窪塚洋介はテレビドラマ『GTO』、そして『池袋ウエストゲートパーク』の怪演を経て、『GO』で批評家の評価も得た。日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞を受賞したのだ。日本アカデミー賞の権威がどうのこうのはあるが、とりあえず日本のマスコミの注目を浴びた。確かに、『GO』における、静かな湖水に波紋を呼び起こし続ける彼の演技は、人を惹きつけてやまない。かくして窪塚は、大衆的な人気を得ていく。

GO

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GO (角川文庫)

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初期の窪塚は、演技は上手くはなかったが、持って生まれた個性が爆発的である。ゲームの『街』同様、窪塚の存在感は強烈だった。何か、彼がそこにいるだけで、見る者に、狂気を伝染させるかのような病巣的な存在感。これは年数を経て、窪塚の新しい演技を見ても変わらない点である。

さて、『GO』が公開されたのは2001年。その後『Laundry』(2002年)、『ピンポン』(2002年)、『凶器の桜』(2002年)、『魔界転生』(2003年)など、出演作が次々と公開される。しかし2004年、彼に転機が訪れる。例のマンション転落事故。2005年に『鳶がクルリと』で復帰したが、以前のように主演級の映画に出ることは少なくなっていく。

ピンポン

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13年後の表舞台

しかし、窪塚洋介という俳優はここで終わらなかった。久しぶりの表舞台は、事故から13年後。しかしその表舞台は、彼にとっては極めて輝かしい舞台だった。オスカー監督賞を受賞した経験のあるアメリカの巨匠マーティン・スコセッシの映画『沈黙』への出演だったからだ。それも、演じるのは難役・キチジローである。


私は思わずGoogleで「窪塚洋介 沈黙」と打って、Webの記事をたくさん消費した。彼の演技が賞賛されている記事を読むたび、喜んだ。アメリカで窪塚洋介よりもイッセー尾形の方が注目された時、「お前らどこを見てる」とすら思った。この感情をふりかえると私は、窪塚のファンだったのだと改めて感じる。

それから、窪塚洋介は海外映画へのチャレンジをしているようで、まだクランクアップされたのかどうかすら分からないが、とりあえずエリザベス・バンクスという女優が主演する映画への出演が内定しているらしい。しかし、いつ公開されるか分からない映画よりも、Netflixのドラマの方が窪塚の勇姿をいちはやく見られる。

それは『giri/haji』というヤクザ映画のようなタイトルのドラマである(英国ではBBCで放映)。タイトルの野暮ったさは気になるが、彼は英国で暮らす日本人を演じるらしい。兄役を演じるのは平岳大。平はブラウン大卒のエリートなので英語も堪能。窪塚は英語を勉強しているというが、どれほどか。早く見てみたい。2019年にNetflixで見られることを望む。

窪塚洋介の演技は人に不穏さ・不気味さを与える

窪塚洋介の代表作を考えると、何が思い浮かぶか。彼は多くの映画やテレビドラマに出ているが、それほど質の高い作品には出演していない。だから私は、『池袋ウエストゲートパーク』のキング役を挙げることにする。これはB級のミステリードラマだが、窪塚が演じたキングは薬物依存でもしているかのような狂気を帯びたトリッキーな男で、主役のマコトの影が薄くなるほどである。

池袋ウエストゲートパーク DVD-BOX

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ただ、窪塚は質の高い作品には出演していないが、演技は忘れがたい。品川ヒロシの映画『サンブンノイチ』(2014年)はB級映画だけれど、窪塚が演じた川崎の闇のボスは凄みがあった。ヤクザとか犯罪の世界に身を置いている者がスクリーンに出てきてしまったかのような不穏さを感じた。『サンブンノイチ』より2年前に公開された『ヒミズ』でもそれは感じた。

池袋ウエストゲートパーク』のキング役も、確かに見る者を不穏に感じさせる演技だったが、片っ方の足を闇の世界に置きつつ、光の世界=メディアに出演してしまうほどの不気味さは、キングには見えない。やはり13年という時の流れが、窪塚洋介を良い俳優に仕立てたのではないだろうか。

なお、13年後の表舞台『沈黙』は、映画の出来は芳しくなかったが、窪塚洋介の演技はきっちりと、脳裏に焼印を押されたかのように私の中に刻み込まれた。彼が裏切っても裏切ってもなお、神の元へすがろうとするリアリズムには瞠目させられる。

彼の狂気がついに、世界を動かしたのかもしれない。

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