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【書評】 ミンツバーグ教授のマネジャーの学校 著者:フィル・レニール、重光直之 評価☆☆☆★★ (カナダ)

ミンツバーグ教授の マネジャーの学校

ミンツバーグ教授の マネジャーの学校

マネジメントの現場こそマネジャーの学校である

ある日突然、自分の会社が買収されたらどうしようか?尊敬している上司が辞めさせられ、そして強烈なリストラが起こり、新しく出向してきた上司は「コストカッター」で、社員の激しいモラルダウンを引き起こしていたら?誰だってどうしたら良いか分からず疲弊してしまうことだろう。著者フィル・レニールはそんな局面に遭遇した。困り果てたレニールは、母の再婚相手に助言を求めた。その再婚相手の名はヘンリー・ミンツバーグ。世界的に名高いカナダの経営学者だった。

義理の息子に、ミンツバーグの出した答えはこれ。「お互いの経験を振り返って語り合い、内省する時間を持つといいだろう。リフレクション、だ」というシンプルなものである。マネジメントの問題を解決するには、内省が必要だということである。

上記のミンツバーグのアドバイスと、ミンツバーグの著書『MBAが会社を滅ぼす』、そしてミンツバーグらが提唱していた国際マネジメント実務修士過程プログラムの資料を元に、レニールは会社のマネジメントを変革しようとする。当初は「マネジメントの勉強会」からはじめたが、遂にはマネジャーのマネジメント力を高めることに成功した。本書ではマネジメントの変革活動を「コーチング・アワセルブズ」という。

本書はケーススタディや経営理論に依存するのではなく、マネジメントの現場からマネジャーが学べる多くのことを教えてくれる。日々、マネジメントに追われているマネジャーには学びが少ないだろう。ミンツバーグがレニールに語った答えのように、一歩立ち止まり内省することこそ重要なのだ。マネジメントの現場こそマネジャーの学校なのである。

著者のフィル・レニールはミンツバーグの義理の息子

著者のフィル・レニールはヘンリー・ミンツバーグの義理の息子にあたる。レニールは、マネジャーとして勤めている会社が買収され、危機的な局面に陥った。誰しも困り果てて疲弊し、現前する難題から逃げたくなるだろう。

レニールは運が良かった。母の再婚相手が世界的な経営学者であるミンツバーグだったのだ。相談しようと思えば相談できる位置にいる。羨ましい限りだ。しかし、本当に「運が良かった」だけなのか?もしレニールが、現前する難題から逃げてしまったらどうなるか?いくら母の再婚相手が経営学者だったと知っても、相談しようと思わなかったかもしれない。

レニールが行動したことが彼の突破口となったのだ。家族にミンツバーグがいたのは幸運で、彼はそのチャンスを逃さず難題を切り開いていった。レニールは、コーチング・アワセルブズを通じてマネジャーが成長していく現状を見た。マネジャーたちの中には、人生を変える者も出てきた。マネジメントに関心がなかった者がマネジメントのキャリアを目指したり、畑違いの職種に進む者も出てきたりした。彼らに共通するのはレニールと同じく行動である。

コーチング・アワセルブズをいくらやったって行動しなければ何も変わらない。レニールもマネジャーも行動が引き金となったのだった。

フィル・レニールのストーリーから分かるマネジメントのあり方

フィル・レイールの実体験から分かるマネジメントのあり方は、マネジメント体験を共有することから始める。最初は愚痴の言い合いでも構わない。感情を共有することが大事だと言う。その上で客観的に見ていく。すると徐々に主体的にマネジメントを捉えることができるようになる。

マネジャーが主体的にマネジメントを捉えることの意義は、マネジャーの現状があるからであろう。マネジャーには大した裁量がない。著者も書いているように、特に大企業ではそうだろう。

コーチング・アワセルブズでは、マネジャーの体験を内省することを大切にする。アクションラーニングの問題解決手法に似ているが、マネジメントの変革に力を入れているところに特徴があって面白い。

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また、共著者の重光直之は、コーチング・アワセルブズの特徴としてマネジャー同士の繋がりが重要だと指摘している。確かにミンツバーグも古くから、『マネジャーの仕事』(1973年刊)でマネジャー同士の繋がりの重要性に触れていた。

マネジャーの仕事

マネジャーの仕事

マネジャー同士の繋がりの重要性については、重光の以下の文章が参考になる(本書87ページ)。

ミドルはトップマネジメントほどの権限はないが、現場を熟知しており、会社の課題と、それをどう変えるべきかを把握している。しかし、同時に一人でやれることも限られている。だから、ミドルマネジャー同士のコミュニティが必要なのだ。

会社はどうなった?

コーチング・アワセルブズはマネジメント変革を目指した人材開発のメソッドである。本書にはマネジャーの変革の積み重ねが職場や会社を巻き込んで変えていくとまで言っている。だが、人材開発だけで会社を変えられるほどの力があるのかは疑問だ。

結局、著者レニールの会社がどうなったのだろうか?組織風土も、職場も会社も変わったのかもしれないが、どうもそこらへんについては文章を多く割いていないのが残念だった。発端はマネジメント変革だったとしても、コストカッターの上司をどう動かしたのか?会社が変わるには社長をも動かさなければならないが、どう動かしたのか?動かしてどうなったのかについては触れられていない。

風が吹けば桶屋が儲かる式に、マネジャーが変われば会社が変わるのだとしても、そこには人事制度や会社の一般的なルール、組織の変革などを経て「会社が変わる」のだろうが、そこらへんは何も触れられていない。人材開発は1つの手段なので、コーチング・アワセルブズだけで上手くいく訳はないはずだ。

だから本書を読み終えて、確かにコーチング・アワセルブズは魅力的な人材開発の手法であることは分かる。しかし人材開発以外に「開発」すべき点に触れないと不誠実な感じがする。コーチング・アワセルブズの魅力は伝わるが、その宣伝本のような印象を持ってしまった。

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