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【映画レビュー】 ぼくは明日、昨日のきみとデートする 評価☆☆★★★ (日本)

あらすじ

同名のライトノベルが原作の恋愛映画。福士蒼汰主演。他のキャストに小松菜奈東出昌大。京都の美術大学に通う男子学生・南山高寿(みなみやま・たかとし)は、通学中の電車で、若い女性に一目惚れをする。この機会を逃してはならないと、思わず声をかけ「一目惚れをしました」と告げて笑顔をもらう。携帯を持っていないという女性に、「また、会えるかな」と尋ねた高寿。女性は「また、会えるよ」と答えるが目には涙が光っていた。

ダサい男がカッコよくなるべきだった

高寿は奥手で、女性と付き合うのも初めて。対する女性の福寿愛美(ふくじゅえみ)の方も初めての恋愛。高寿を演じるのが福士蒼汰。私は彼の演技を見るのが初めて。ネットでは演技が下手だと叩かれているが、そんなに悪くなかった。反対にヒロイン役の小松菜奈は、かなりかわいらしい雰囲気であるが、感情を抑制した演技をしてしまっていて、役になりきれていなかった。福士はクールな役柄ながら、バスの中で嗚咽したり、愛美と心が通じ合えず茫然としたりする場面など良い味を出して演じている。

ただ、この映画は演出が下手くそ。高寿は当初、眼鏡をかけたダサい男という設定なのだが、高寿の見た目があまりダサくないのだ。眼鏡をかけて、ちょっと変な服装をするだけでは物足りない。思いきって、『電車男』の山田孝之みたいにリュックをしょって、長髪でオタクっぽいダサさがないと、女性に出会ってカッコよくなっていくプロセスが見えない。福士は何とかダサい男を演じようとしていたが、彼の美男ぶりが透けて見えるほど見た目が悪くないのである。

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高寿は途中で愛美に髪をカットしてもらうのだが、元々さほど酷い髪形でないので、カットしてもらっても変化を感じなかった。眼鏡男子という言葉が昔流行ったが、あんな感じで「ちょっと服装が変だけど良い男だよね」と思われる見た目だ。こういう重要な設定に手を抜いてしまう映画なのだ。

肝心のパラレルワールドの設定が意味不明である

ぼくは明日、昨日のきみとデートする』という恋愛映画には、ファンタジー要素が入っている。時間軸が混乱しているようなタイトルなのは、そのためだ。ねたばらしをすると、女性の愛美はパラレルワールドの世界に生きている。しかもパラレルワールドの時間軸は、高寿とは逆である。男性の高寿の時間は過去→現在→未来という時間軸に生きるが、愛美は未来→現在→過去に生きているのだ。

パラレルワールドは5年ごとに交差し、2人は会えるようになるという。高寿と愛美は共に20歳。時間軸を逆に生きているので、高寿が25歳になると、次に愛美に会った時に彼女の年齢は15歳になってしまう。更に高寿が30歳、35歳を迎えていくと愛美は10歳、5歳となる。5歳の次は0歳なので2人が出会えるのは、高寿35歳、愛美5歳までということになる。次に高寿が愛美に出会う時、彼女の年齢は15歳なので、もはや恋愛はできない。したがって、恋愛ができるのは20歳であるこの時間、しかもわずか30日間だけというのが、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』のテーマ。

このパラレルワールドの設定が映画の肝なのだが、意味が良く分からなかった。単に未来の人で良いんじゃないかと思ったのに、わざわざ分かりにくい設定にしている。パラレルワールドなのに2人が出会える理由は、高寿が35歳の時に5歳の愛美を助け、愛美が35歳の時に5歳の高寿を助けたからというもの。その設定自体はおかしくないけれど、パラレルワールドにした意味が分からない。

20歳の時、30日間だけ愛し合える恋愛というアイディアを先行して、作られたストーリーなのだろうが理解しにくい。高寿は私たちと同じ時間軸を生きているので過去の記憶があるが、愛美は高寿からいえば未来から始まっているので、同じ過去を共有した記憶を持たない。その切なさを描きたいなら、若年性認知症の女性を愛する男性の物語にすれば、まだしも理解しやすかった。そうなるともはやファンタジーではなくなるし、本作のような個性はなくなるが、映画を見る人にとってはよほど分かりやすいはず。

フィクションだからこそリアリティを追及せよ

フィクションだからこそリアリティを追及して欲しいものだ。特に『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』のように、分かりにくいパラレルワールドの設定にするなら、相当に設定を細かく決めないと見ている方は感情移入できない。

一番分からないのは、高寿の世界にいる間、愛美はどのように過ごしているのかということ。家族と一緒にパラレルワールドから高寿の世界に来ているのか?それにしては、家族の姿が一切描かれないのはどうした訳か。彼女だけ来ているのか?そうすると自宅の電話番号はなぜ繋がるのか?パラレルワールドでしか使えない番号なのか?そこらへんの説明が全くない。

愛美にとっては、彼女は時間をさかのぼっていくので、高寿との経験を全然共有できていない。そんな男と、そもそも、愛をはぐくもうと思うだろうか。この点は高寿にとっても同様である。なお時間をさかのぼる愛美は、高寿が生きている時間を生きていないのでいわば記憶がない。それゆえに、高寿が教えてくれたメモを頼りにデートをするのだが、そんなことをしてどうするのだろうか。どう感情が交流するのだろうか。もっとリアリティを追及してもらいたい。