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【書評】 知らない人を採ってはいけない 新しい世界基準「リファラル採用」の教科書 著者:白潟敏朗 評価☆☆☆★★ (日本)

リファラル採用とは?縁故採用とは違う新しい採用スタイル

本書『知らない人を採ってはいけない』は、リファラル採用についての解説書。著者の白潟敏朗は、リファラル採用の事業会社を運営している。尚、人材開発の会社トーマツイノベーションの設立者でもある。

最近、プライベートでもリファラル採用の話題が出るようになってきて、社員の紹介を経た採用活動を指すという。それなら、「リファラル採用って縁故採用じゃないの?」という人がいた。しかし本書を読むとどうも違う。著者は、リファラル採用縁故採用と似ているが、全く同じではないというのだ。

社員の紹介だからといて、無条件で入社できるのではなく、しっかり面接し採用の可否を決定します。

つまり、リファラル採用は、社員の紹介という接点では縁故採用と似ているが採用方針が異なるということだ。縁故採用でも、形式的に面接することはあるが、面接の結果がどうあれ採用することが決まっている。しかしリファラルの場合は「しっかり面接し採用の可否を決定」する。

リファラル採用をカテゴライズするとダイレクトリクルーティングの1つである。ダイレクトリクルーティングとは、会社が求職者を積極的にアプローチする採用スタイル。リクナビマイナビのような広告媒体、エージェントなどの人材紹介とは違って、会社自らが求職者と接点を持って採用していくというものだ。

リファラル採用はコストがかからない

ダイレクトリクルーティングは、会社自らが求職者と接点を持って採用していく。そして、リファラル採用もダイレクトリクルーティングの1つである。ということは、会社と求職者の間に仲介が入らない。そのためコストがあまりかからないで済む。

本書を読むと、リファラル採用はコストが安い。リファラルにすれば、広告媒体もエージェントも使わず、かかるコストは社員への紹介報酬や会食費くらいで済むというのだから、大幅なコスト削減である。

私も採用担当をやっていた時、エージェントを使ったことがあるが、年収の30%を成功報酬として請求されることが多かった。年収600万円の人を採用したら、180万円の成功報酬をエージェントに支払わなくてはならない。3人採用したら540万円だ。

これは中途の成功報酬額だが、新卒でも安くはない。リクルートでは1名採用するごとに100万円の成功報酬がかかる。

https://www.recruitcareer.co.jp/business/new_graduates/rikunabi-agent/price/

求人媒体は会社によって費用が異なるが、本書のデータによると媒体は平均して294万円かかっていた。媒体だから1人採用するごとに費用がかかる訳ではないが、それでも高い。

それに対してリファラル採用はどうか。

前述のようにかかる費用は紹介報酬や会食費、せいぜい交通費くらいである。本書には会食費として3万円~15万円かかるというが、イメージしやすい金額だろう。紹介報酬は会社によってまちまちだが、入社時10万円とか3,000円を2年間支給するとかいう事例が載っている。そもそも、報酬を設けない会社もあるし、著者は紹介報酬を勧めていなかった。

エージェントの540万円、広告の340万円と比べてもかなりコスト削減となることが分かるだろう。

「社長と会社を好きになる人」を育てることが難しい

一方、著者がアピールするリファラル採用のメリットには、社員が社長と会社を好きになり、その魅力を知人に訴えて自社に入社してもらうことが挙げられていた。さらっと書いてあるが、これは大変なことではないだろうか?

本書では、リファラル採用のメリットの1つに、「会社の魅力と課題の見える化」が書いてある。

リファラル採用は、シンプルに考えると「自社を友人・知人に紹介したいと社員に思ってもらう」、そして「その社員の話を聞いて、友人・知人に転職したいと思ってもらう」の2つがそろってはじめて動き始めます。

だからこそ、社員が自社を紹介したいと思えなくてはならないし、現状、そうなっていないのであれば変えなくてはならない。それが課題の見える化だと言い、見える化された課題を解決しなくてはならない。

しかし、課題を解決するためのハードルが高い場合があるだろう。例えば、人事制度がメチャクチャだったらどうするか?組織風土が荒んでいたらどうするか?

人事制度は改定しなくてはならない。組織風土も荒んでいたら変えなくてはならないが、風土は目に見えないから制度設計よりも解決は難しい。これらを変えているだけでも時間が大幅に経過してしまうだろう。そもそも自社単独でできるか分からない。といって、採用は待ったなしだから、リファラル採用を目指して、とりあえずは従来の採用手法(媒体、エージェント)を使い、追々リファラルに移行すれば良いということなのかもしれない。

いずれにしても、課題解決のために高いハードルがある場合、どうするのかが本書では見えない。だから、採用活動する社員に、社長と会社を好きになってもらうといっても、それ自体が困難になってしまってはリファラルを始められない。高いハードルについて、どう対処するのかは触れるべきだっただろう。

課題が解決された暁には、リファラル採用はコストパフォーマンスに優れた採用手法となる

しかし、もし、何らかの手段で高いハードルの課題を解決した場合、リファラル採用が上手くいきそうな感じはする。課題が解決され、知人・友人に紹介しても良い会社になったら、採用活動のコスト削減も効果を発揮するだろうからリファラルはコストパフォーマンスが高い採用手法となる。

リファラル採用のデメリットが書かれている

本書にはリファラル採用のデメリットが書かれているので、読者に誠実な印象を与える。デメリットは以下の5点。

・採用できるまでに時間がかかる
・1年以内の大量採用には向かない
・活動してくれる社員に負荷がかかる
・採用を間違えた場合にやめさせづらい
・今いる社員以上のレベルの人材は採りにくい

大量採用に向かないというのは、会社の採用方針によってはリファラルを採用できないことを意味する。この点はエージェントも同様。広告媒体を使うということになる。ちょっと脱線するが、採用ホームページ単独で充分な母集団を集められるようになれば、媒体も要らないが、そうなるとHPだけで採用できる「ダイレクトリクルーティング」となる。媒体には安くない費用を払っている。うまく集客できればHPだけの採用もありかもしれない。

今いる社員以上のレベルの人材は採りにくいというのも、その通りだろう。よほど人脈がある人なら、様々な人材を紹介できるかもしれないが、そういう社員がいること自体が希少。ただ、本書には間接的な知人・友人の紹介もリファラル採用になるというから、レベルの高い人材が来る可能性も否定できない。

リファラル採用の具体的な進め方

本書後半は、リファラル採用の具体的な進め方について解説されていた。まずは採用担当者の人選。採用といっても、人事担当者だけが採用活動を行う訳ではない。他部署からも人を集めていく。その後、欲しい人材像を決めて、リファラル採用を運用する上でのルール作りを行う。次に魅力・課題を設定する。

課題については前述の問題がある。採用活動を行う社員に社長と会社に魅力を持ってもらうことに重点が置かれているのだから、ハードルの高い課題を解決せずには勧められまい。それを解決したとして課題の設定を行う訳だが、「受け入れてもらいたいこと」を知人・友人に言って良いというのは興味深い。確かに、社内の全ての課題を解決することはできないだろう。だから、「これはちょっとな」と社員自身が思うことであっても、知人・友人には何とか受け入れて欲しい課題はある。それを「受け入れてもらいたいこと」として書き出し、応募者に伝えるという点は正直で良いと思う。

課題の設定が終わったら、会社の中期経営計画を立てて、アピールブックというものを作る。口頭で魅力を言うだけではなく、会社の魅力を冊子にして作っておくのだ。そうすれば、社員も相手に魅力を伝えやすいだろう。

本書は、このように、リファラル採用メリット・デメリット、具体的な進め方まで、薄い本ながらリファラル採用のエッセンスが書かれていた。リファラル採用を概観するにはうってつけの本といえると思う。