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【書評】 暗黒ハローワーク 俺と聖母とバカとロリは勇者の職にありつきたい 著者:久慈マサムネ 評価☆☆★★★ (日本)

文章は酷い

『暗黒ハローワーク』という奇異なタイトルに興味を持って読んでみた。ライトノベルらしく文章は退屈。ネットに転がっているブログ記事みたいで素人が書いたような文章だ。
文章を読んでも情景をイメージすることが難しいし、平板なセリフの数々からはキャラクターの魅力を捉えにくい。文章を読んで何かをイメージしたり感興を引き起こされるというよりも、紙芝居のように淡々とストーリーを追っていく感じだ。これでは小説の意味を成さない。小説として世に出す意味が分からないのだ。

『暗黒ハローワーク』はアニメのシナリオである

小説の意味を成さないのに、小説として世に出ている本作は、いったい何なのか。小説としては存在する価値はないが、紙芝居のように淡々とストーリーを追っていくという、本作の消費のされ方から考えると、小説ではなくアニメのシナリオとして考えれば良い。小説は、文章を読むことで情景をイメージしたり感情を刺激されたりする。だが『暗黒ハローワーク』の文章は、生起した事実を無味乾燥な文章で書き連ねているため、情景のイメージや感情への刺激はほとんど起こらない。

もしこの文章がアニメで描かれるとするなら、キャラクターの台詞は声優がしゃべり、BGMが付いたりするので、小説として存在する価値がない『暗黒ハローワーク』も、多少は面白みを帯びるかもしれない。しかしなぜわざわざ私は小説として価値がない小説に、別の価値を見出そうとしたのか。答えは『暗黒ハローワーク』の設定に多少の興味をそそられたからである。

ファンタジーのノリで就活を描く

本作は小説としては面白くないが、設定が興味深い。主人公たちは就活中の学生。しかし目指すべきは大手企業ではなく、勇者。そして勇者としてホワイトなファンタジー世界へ送り込まれたいと思っている。ホワイトなファンタジー世界というのが、現実でいえばホワイトな大手企業なのだろう。

主人公たちは東京ビッグサイトに行って、説明会に行く。そこは会社説明会ではなく勇者説明会なのである。そこでいかに自分達が勇者として優れているかをアピールし、ホワイトなファンタジー世界へ行こうとするのだ。誰しも一度は通る、就活の道。現実の就活をファンタジーに置き換えることで、読者の興味を引きながら本作の世界観へ浸からせていく。ファンタジーのノリで就活を描いているのだ。

だから、設定の価値を優先的に考えれば、小説としては紙くずのような本作も蘇生する余地があるように思えた。それは、アニメである。アニメとして「転生」できれば、『暗黒ハローワーク』は設定を活かして世に羽ばたくことも不可能ではない。本作は、そういう奇妙な期待を抱かせる作品である。