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【映画レビュー】 ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期 監督:シャロン・マグワイア 評価☆☆☆☆★ (英国その他)

スターウォーズ』も『ハリーポッター』も見たことがない

私はヒットした映画を見逃していることがある。『スターウォーズ』『ロード・オブ・ザ・リング』『ハリー・ポッター』シリーズは未だに見ていないし、ジェームズ・キャメロン監督の世界的ヒット作『タイタニック』『アバター』も見たことがない。上記作品の中で『タイタニック』は見ても良いかな…と思うが、それ以外は今も見たいと思えない。これらに共通するのはSF、ファンタジーというジャンルということだ。アクション映画は大作でも好きなのに、SFやファンタジー大作となると途端に見る気が失せる。食わず嫌いということもあろうから、人生のうちでいずれは見るかもしれないが、今のところは見なくて良いと思ってしまう。映画は数限りなく作られているし、どうせ一生かけても全ての映画を見ることなど出来はしないから、タイミングが合わないと見ないだろう。私が好きなミヒャエル・ハネケ北野武の映画だって、全て見ていないのだ。それらを全て見ていないのに、肌に合わないジャンルの映画など見る訳にいくまい。

この文脈の中で『ブリジット・ジョーンズの日記』を挙げることは、いささか不釣り合いかもしれない。なにしろ稼いだ金の額が違うからだ。『アバター』は27億ドル、『タイタニック』は21億ドル、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』は20億ドル、『ハリー・ポッター2』は13億ドル、『ロード・オブ・ザ・リング王の帰還』は11億ドルを稼いでいた。しかし『ブリジット・ジョーンズ』は3作品全て合わせても8億ドルにも満たない。わずか1作品で11億ドルも稼いだ『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズとはケタが違うのだ。もちろん『ブリジット・ジョーンズ』だって、1作品平均で2億ドルを稼いでいるのだから、充分にヒットしたといえる。

そして『ブリジット・ジョーンズ』シリーズは恋愛映画なので、私が苦手なSF、ファンタジー映画とはジャンルが違う。そういうこともあって、今回見るに至ったが、『ブリジット・ジョーンズ』作品の初代が2001年だから、シリーズ初見までにずいぶんと長い時間を要したことになる。やっぱり私はヒット映画を見逃しているかもしれない。

40代の独身女性の等身大の姿を描いた良作

ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期』は、英国を舞台にした恋愛映画である。主人公のブリジットも英国人だし、恋人役のマークも英国人だ。もう1人の恋人役のジャックは米国人であるが、英国の文化の中に米国人が入ったという格好である。本作は40代の独身女性の等身大の姿を描いた作品で、コメディの色彩が強いものの、女性の心情を端的に描いていて、見終わった後に静かな感動が訪れる良作となっている。

結婚を焦る独身女性と父親探しの物語

40代となると、結婚を希望する独身女性なら焦るだろう。「早く結婚しなくちゃ」が独身女性同士の合言葉。周りで一人、また一人と結婚する女性が増えていくと焦りは焦燥に変わる。肉体の衰えも気にかかる。若い頃に気にならなかったことが気にかかる。化粧のノリ一つとっても、若い頃とは違う。男性も若い女性に目が行く。40代の私と結婚してくれる男性はいないのではないか?と思う。

ブリジットもそんな女性の一人だが、彼女は二人の男にモテた。一人は行きずりの米国人ジャック。美男子だが、どんな男か全く分からない。彼女は音楽フェスで、間違えてジャックのテントに入り、その場でセックスしてしまう。

もう一人は何年も付き合ったのに結婚に至らなかったマーク。彼は既婚者だが、離婚予定と言っていて、ブリジットはマークとも寝てしまう。

しかし、ブリジットは自分の年齢を考慮して、結婚するなら行きずりの男ではダメだし、何年も付き合ったのに別れ、しかも現在は既婚の男ではダメだ。だから彼女は二人の元を離れるが、どうも体の調子がおかしい。全く生理がこないのだ。まさか?と思って調べると妊娠反応。音楽フェスで一緒だった同僚の女性がおお喜びするが、ブリジットは困惑してしまう。

果たして、父親は誰?ジャック?それともマーク?もちろん避妊はしていたものの、何年も前のコンドームだったので、妊娠に至ってしまったという訳である。

セリフによるギャグの面白さ

ギャグシーンはなかなか面白い。一発ギャグや変顔とか体当たりではなくセリフで笑わせようとしていて、何度か笑ってしまった。

一発ギャグ、変顔や体当たりのようなギャグは、面白いには面白いが、どうしても耐性ができるのが早いので飽きやすいのだ。また、一発ギャグ、変顔や体当たりギャグは、バリエーションを考えるのが難しいであろう。どうしても二番煎じになる。その人の属性になってしまって、異なる一発ギャグや変顔や体当たりギャグをしても、その人の属性との比較になってしまってそんなに笑えない。

その点、セリフによるギャグは、言葉で成り立っているから、バリエーションは考えやすい。むしろ、ある程度バリエーションは底なしといっても良いかもしれない。それと、セリフは言葉だから、それほど属性に縛られることもないだろう。

だから、言葉そのものが面白いのが本作のギャグだけれども、話し方で面白くすることもできる。全盛期のビートたけしの怒濤のような話し方が好例だが、面白い話の構造を更に面白くしたり、あるいは大したことを言っていなくても面白いように感じたりする。

誰が父親か?父親探しと愛の試し

セリフによるギャグの面白さもさることながら、ストーリーも良い。ほんのわずかな期間で二人の男と寝てしまったブリジットは、妊娠を喜ぶ二人の男に、なかなか本音を言えない。言うと落胆するし、そもそも、「誰の子だよ?」と疑心暗鬼になるだろうから。当然DNA検査をして父親を調べることもできるが、ブリジットは検査をしない。父親が誰か?ということは、すなわち、ブリジットの夫が誰か?ということを意味する。二人の男のうち、どちらかを選ばなくてはならないが、夫にふさわしい男を見極めるためにも彼女はDNA検査をしない。

しかし、ある時ジャックが卑怯な行為に出る。マークに対して「自分はコンドームを付けないでセックスした」というのだ。自分が父親という可能性が低くなったことを悟ったマークは、ブリジットの前から姿を消す。

見る者はこの辺りで、マークが夫に選ばれるだろうと予想するが、果たしてその通りになった。卑怯な男は夫には選ばれることはないのだ。

マークは自分の子でなくてもブリジットを愛するといい、結局、ブリジットの愛を勝ち取ることができた。ジャックも似たようなセリフを吐くが、やはり卑怯なことをしない男が選ばれる。

血のつながりがどうのこうのということより、心を込めて愛することはどういうことかを問うているように感じた。この映画には、多様な愛を実践している人物が出てくるが、多様性こそ肯定するのではなく、形式的なものよりも、感情や心情によって愛することを肯定している。