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【映画レビュー】 君が生きた証 評価☆☆★★★ (2014年 米国)

君が生きた証 [DVD]

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音楽が趣味の息子が序盤であっさりと死ぬ。その死の原因は大学で銃乱射事件があり殺されたというもの。息子には恋人がいて、遺族である父親に同情してくれる。

乱射事件の発生が映画のように報道される米国においては、ありふれた光景かもしれない。父親は息子が残した音楽作品の中から気に入ったものを見つけて、バーで歌う。音楽はある若者を引き付け、一緒にバンドを組む。瞬く間に地元で人気のバンドとなるが、父親にはある秘密があった。

というような作品。

秘密というのは、言ってしまえば身も蓋もないけれど、銃乱射事件で殺された息子というのは、被害者ではなく、加害者であった、ということだ。それを映画は我々に秘密にするのだが、あまり秘密にしている意味を感じない。

銃乱射事件の加害者であることによって、この映画は、衝撃を感じさせる演出をしていないからだ。淡々とその事実を描く。それならば、最初から隠さずに明かせば良い。この映画が言いたいことは、銃乱射事件の加害者であっても、父親にとっては大切な息子なのだということだ。尚更、始めから加害者であることを明かしておけば我々は父親に感情移入できる。しかしそれをしなかったということは、この映画は我々に衝撃を与えようとしていないし、感情移入させようともしていないということだ。いや、むしろ、そうしようと思って失敗したと言うべきか。

加害者であることを秘密にすることは、この映画は何らかの衝撃を与えたかったと思われる。そうでなければ意味がないからだ。しかし、淡々と描いてしまったために衝撃を与えることなく失敗したのだ。感情移入についても同じで、加害者であることを秘密にすることが前提となっているために、衝撃を得られない演出と相まって、感情移入しにくくなっている。

もうちょっと奇をてらわず、シンプルに、加害者であっても、父親にとっては、息子は息子なのだというメッセージの強い映画にすれば、感動もしたと思うのだが。残念な出来だった。