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【書評】 カイジから経済を学べ 著者:丹羽由一 評価☆☆☆★★ (日本)

 

カイジから経済を学べ

カイジから経済を学べ

 

 

筆者は、『カイジ』という漫画を読んだこともなければ、映画版を観たこともない。タイトルだけは有名なので知っていたが、その程度の認識であった。

 

本書は「経済を学べ」というタイトルだが、行動経済学についての読み物だ。本書のタイトルにも副題にも書かれていないが、入門書としての役割を務めようとしていた。

 

カイジ』を題材に行動経済学を紹介していく書き方だが、オーソドックスな理論を網羅していた。新古典派による、人間は「合理的な選択」を取るという前提では解明仕切れない、不合理な選択をしてしまう人間の心理と行動を紹介していく。『カイジ』という、金と命が懸かったギャンブル漫画を題材にしているところが、まさに行動経済学らしくて適切であろう。それと、パートごとに、「Q」と称してクイズのようなものがあるのが、行動経済学を実践で考えるシミュレーションになっていて、良いと思う。

 

パートごとに『カイジ』のエピソードを皮切りにして、行動経済学の理論を説明していく手法が分かりやすい。プロスペクト理論、メンタルアカウントなど、類似の入門書でも頻出の理論が大まかに解説されている。『カイジ』のエピソードは最初までで、後は前述の「Q」があったり、現実の事例があったりして、行動経済学の入門書としての役割はおおむね果たしていた。ただ、『カイジ』ファンにとっては、もう少し『カイジ』について触れて欲しいと思うかもしれないし、筆者のように特に何の思い入れのない者にとっては、『カイジ』は邪魔な付属物のようにも見えた。というのも、『カイジ』のエピソードよりも、「Q」や現実の事例の方が著者は説得力をもって書いているようだった。もしかして余り『カイジ』のことを、著者は知らないのではないか?という気もしたが、未読の筆者にとってそれは検証できない。