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【書評】 人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか 編者:玄田有史 評価☆☆☆☆☆ (日本)

「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」についての論文集

『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』は、労働経済学者の玄田有史編による論文集である。本書のタイトルがそのままテーマにもなっている。テーマ的に執筆者は主に経済学者であるが、他の社会科学からの寄稿もあり複合的な方面からテーマを捉えているといえる。所収されている論文は以下の通り。

●人手不足なのに賃金が上がらない三つの理由
(近藤絢子)
●賃上げについての経営側の考えとその背景
(小倉一哉)
●規制を緩和しても賃金は上がらない
(阿部正浩)
●今も続いている就職氷河期の影響
(黒田啓太)
●給与の下方硬直性がもたらす上方硬直性
(山本勲、黒田祥子)
●人材育成力の低下による「分厚い中間層」の崩壊
(梅崎修)
●人手不足と賃金停滞の併存は経済理論で説明できる
川口大司)
●サーチ=マッチング・モデルと行動経済学から考える賃金停滞
(佐々木勝)
●家計調査等から探る賃金低迷の理由
(大島敬士、佐藤明彦)
●国際競争がサービス業の賃金を抑えたのか
(塩路悦朗)
●賃金が上がらないのは複合的な要因による
(太田聰一)
●マクロ経済からみる労働供給と賃金の関係
(中井雅之)
●賃金表の変化から考える賃金が上がりにくい理由
(西村純)
●非正規増加と賃金下方硬直の影響についての理論的考察
(加藤涼)
社会学から考える非正規雇用の低賃金とその変容
(有田伸)
●賃金は本当に上がっていないのか
(上野有子、神林龍)

以上、15の論文が収められている。

全体的に面白く、特に下方硬直性が良い

全体的に面白かった。特に下方硬直性という概念を扱っている論文が良い(山本勲、黒田祥子、加藤涼)。山本・黒田論文では、賃金が下方硬直的であるがゆえに、経営者は賃金を上昇させることに慎重になる(上方硬直的)という。下げられないから、人手不足になっても容易に賃金を上げられないという訳である。また、あまり理論的ではないが人事に携わる人なら西村純の論文が分かりやすい。これはダイレクトに、賃金制度から賃金が上がりにくい理由について述べられている。

また、巻頭の図表も的確で良い。論文の著者も巻頭の図表を参照しているから、読み終わったあとで図表を見返すとまた違った色合いで迫ることだろう。