日本のTVドラマがつまらない・つまらないと思っていたが、今期こそは良いのかもしれない。未だ1~2話しか見ていないが、いずれも悪くない気がしている。
・僕のヤバイ妻
伊藤英明演じる実業家の夫が、妻(木村佳乃)を毒殺しようと家に帰宅すると、妻が誘拐されていた。わざとらしく、リビングには妻の血液が残されている。「警察に通報すると殺害する」という犯人の脅迫を信じて、「これなら自らの手を下さずとも妻を殺害できる」と思った夫は、警察に通報した。
かけつけた刑事(佐藤隆太)らは、夫が妻を誘拐したのではないかと疑う。夫の不倫疑惑、毒殺未遂疑惑が警察に浮上して行く中、夫のトランクから妻の血液が発見され、夫が逮捕されそうになるというストーリー。
このドラマは未だ1話だが久しぶりに面白いサスペンスだ。俺は最近、俳優ではドラマを見なくなっている。窪塚洋介でも出ればその時点で見ても良いが、良い俳優が出ていてもストーリーがリアリティがなかったり、視聴者の想像力を喚起してくれなかったりして、見ていて面白くないからだ。それよりは「ストーリー」を見て「面白い」と思えるものを見るようにしている。
そういう意味では、木村佳乃は嫌いな女優の一人だから、『ヤバ妻』(と呼ばせて頂く)は見たくないと思っていた。しかしストーリーは上記の通りでいかにも好みなので、見てみたらなかなか良い。
逮捕されるようになるのは中盤以降だが、それと並行して、夫の姉や姪の発言、そして妻の隠された箪笥から秘密のメモなどにより、殺したいと思っていた妻が、徐々に「良い人の外貌」を露わにする。
殺したいほど憎んでいた妻だが、婚約指輪をプレゼントした時や、結婚式の思い出を想起し、良い人だった妻の姿が明らかになるにつけ、殺害願望を後悔する夫。自ら手を下してないだけに、本当に殺されてしまうのではないか!と思う夫。
しかし視聴者は忘れていない。
ドラマの冒頭で、妻が見せていた異常性を。夫にいちいちついてきて、彼の歯磨き中に「ペッ」と捨てた唾液や歯磨き粉の飛沫を拭ったり、靴箱にシールを貼って「どれが誰の靴か」「どれがどんな種類の靴か」を明記していたことを。そして何より、タイトルが『僕のヤバイ妻』であることを・・・。
キャラクターも考えられていて、不気味な隣人夫婦(高橋一生とキムラ緑子)、未だ情報が公開されていないバーのマスター(佐々木蔵之介)、かわいいけれど自己本位な不倫相手の女性(相武紗季)などだ。やっぱりお笑い芸人が出てしまうのは残念だが(宮迫は言うほど上手くないのだ。本職を使わずに視聴者に媚びて芸人を使うと映画もドラマもダメになる)、これだけ視聴者の関心を呼ぶキャラクターを設定できれば十分だ。
一番素晴らしいのは主演の伊藤英明で、『海猿』の頃の筋肉質で正義感をもろ出しにする単純明快な演技は見せない。まあ、ああいうアクション映画ですら下手だと思わせないのは伊藤の上手さなのだろうが、このドラマでは、一見行動的で自分勝手に動いているかに見えて、その実、女性(木村と紗季)に翻弄されているおバカなキャラクターを忠実に演じていた。
ストーリーもキャラも俳優も面白いということで、なかなか楽しみなドラマだ。
『下町ロケット』のような感動路線のドラマ。ただ『下町』より安直で漫画的過ぎる。1話はそれでもまあまあ良かったのであるが、2話を見ると不安が拭えない。3話もつまらなかったらもう見ない。
どうしても漫画というものは、リアルに描こうとしない。プロセスを丁寧に描かず、短絡的に描いてしまうのだ。だから俺は漫画(特に感動路線)が好きではないし、漫画原作のドラマには不安を覚える。
『重版出来!』でもそれは顕著で、主人公の黒沢がとにかく強い。
このドラマは漫画編集者や営業、そして漫画家の生き様を描いているが、黒沢は新卒社員で大学時代は柔道で汗を流した直情径行の女性。
1話完結で、漫画業界の難題を毎回黒沢が解決して行く。『花咲舞』の時も思ったのだが、1話完結のビジネスもので毎回難題を解決されると、スーパーマンを見せられているようで、視聴者との距離感がある。
2話は特に黒沢の強さ(それも直情径行によるもの)が目立ち、先輩社員の営業マンがくよくよして出来なかった漫画の売り方を、黒沢のアイディアでぽーんと打ち出して確立してしまう。いくらなんでもそんなのってあるか。見ていてばからしくなってしまった。
作品の途中で、営業マンが「俺はがんばるって言葉が嫌い」と言っていて、共感したが、結局はがんばることで乗り越えて行く。自分の行動は易々と変えられるものではないのだ。黒沢のアイディアに気付かないものなのだ。それにもかかわらず1ヶ月間という短いスパンで「変わり」成果を上げて行く。ビジネスに身を置いている人たちからしたら、「ずいぶんと端折っていないか」と思うはずである。
安田顕演じるSNS好きの編集者が「黒沢の失敗」を予想させる発言をツィッターに上げている。これから失敗するのを予感させる。もし何もなく終わってしまうと、虚構が虚構を描いているだけに終わるだろう。
・ディアスポリス
俺の嫌いなすぎむらしんいちの漫画を原作にしているので、見ようかどうしようか迷っていたが、まあまあだ。
初期の三池崇史の無国籍映画のような雰囲気が良い。日本の映画やドラマは、もっとアナーキーでエキセントリックでなければダメだ。どこかで見たことがあるような演出はもう結構。
おれはどちらかといえば右翼的で保守的な政治思想の持ち主だけれど、芸術の世界では右も左もない。日本ドラマで外人しか出ないような作品・・・例えば『ディアスポリス』がどのような展開を繰り広げるか分からないが、日本を裏社会で外人が牛耳るような世界を描いても面白いと思う。これだけ単一民族でやってきて20年以上もGDPが500兆円のまま変化しない国だ。ここらで外人が出てきて、政治や経済を変えて行くのも一興だ。外圧がなければ変わらない国の気質が日本にはあるのだから、単一民族が支配する世界は、もうおしまいとばかりに、訳の分からない外人が日本を牛耳るのもフィクションでは面白い。何らかのメッセージがある。
「ディアスポリス」がそうなるかは分からないけれど。
主演の松田将太以外、大して見たこともない俳優が多数出ている。どこを見ても有村カスミや広瀬すずではしょうがない。たまには見たことがない俳優が見たい。そういう欲求にも答えてくれる。
・99.9
『99.9』は、タイトルが象徴的に表しているように、起訴されると99.9%被告が有罪にされるという司法の現状にあって、残り0.1%の無罪率に懸ける弁護士の物語だ。弁護士を演じるのが松本潤で、『HERO』の木村拓哉のような風変わりの弁護士である。だが、『HERO』の木村がハーフパンツに茶髪にロン毛、挙句の果てに弁護士らしい知性を感じさせない設定(木村の演技力の問題もある)に比べると、風変わりといっても、「どこかにいそう」な雰囲気を漂わせている。
0.1%の無罪率に懸けるといっても、本作は大して社会的なドラマではない。もし社会的なメッセージ性を持つ作品にしてしまうと、つまらないだろう。裁判というだけで、重々しいではないか。そこに0.1%の無罪率に懸けて権力(被告にとっての権力、弁護士にとっての権力と様々)と戦うとか、検察と戦うとか、あるいはマスコミ(マスコミの報道のお陰で無罪であるものが有罪に傾くとか)と戦うとか、そういった社会性を全面に出してしまうと、重々しいものがさらに重くなって、見る気が失せる。
『99.9』は日曜日のTBSドラマである。21時に放送されている。明日は会社なのだ。食事もした、風呂も入った、歯磨きまで終わらせた。ドラマを見たら寝るだけにしたい。そんな時に重厚過ぎる社会的ドラマを見せられたらたまらない。
そういう意味では、『99.9』は軽い。1話では、Queenの『We Will Rock You』を使ったギャグが出てきたり、シリアスなシーンに「火の用心・山田用心・妻用心」という看板を出させたり、主人公の家が変な居酒屋でパーマ頭のオッサンが出てきたり、笑いをラフに取ろうとしている。無理な笑いではないので、「笑わない人は笑わなくて良いよ。笑いたい人はくすっと笑ってくれれば良いよ」というような、楽~な笑いの演出が随所にある。しつこくやると大人計画になってしまうし、無理をしていないところが面白い。
軽いだけで終わらないところが『99.9』の良いところで、推理ドラマとしての様相も呈している。暗さがまるでない推理ドラマに見えるが、ちゃんと悪は叩き潰すし、真実への執着が著しいところが評価できるところ。
本作の主人公自体が軽い男だ。3,000万円の年収で採用すると弁護士事務所に言われて、「雇われるのが苦手」と言いながら、パートナーのパラリーガルも一緒に雇ってくれるなら入所すると提案して、ゴーサインが出るとあっさり乗る。たいして拘りがないのだ。お金じゃないとか、一人がいいとか、そういう執着心がない。別になりゆきで働くことになれば、いいか、くらいの適当なスタンス。これがドラマ全編に流れる軽い演出とぴったり合う。
しかし主人公は0.1%に懸ける。そこだけは揺らがない。エリートって訳でもないし、中卒で弁護士になったとかいう変な際どさもない。あるのはシンプルな目的意識のみだ。そしてこの目的意識というものが、ドラマを貫く。軽いには軽いが、ベースはしっかりとした目的意識。そう、0.1%に懸けるということ。なかなか楽しみな作品だ。
俳優はだいたい良いと思う。特に嫌だなと思う人はいないが、特別良いなと思える人もいない。『真田丸』でゲンジロウの忠実な家臣がチャラい弁護士で出ている。