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【書評】 芥川賞の偏差値 著者:小谷野敦 評価☆☆☆★★ (日本)

 

芥川賞の偏差値

芥川賞の偏差値

 

 芥川賞第1回~最新回まで164作をランク付けしたブックガイド。平易な言葉で、芥川賞作品を紹介している。文体は彼のAmazonレビューと似たようなもので、肩の力が抜けている。本書は芥川賞を受賞した全作品について触れているのと、部分的に候補作についても書かれているので、芥川賞のデータベースとしての価値がある。

肩の力が抜けた文体は気に入らないが、対象の文学作品に対してはっきりと、「面白い」「面白くない」が断定的に書かれているところは独特だろう。この断定的な口調に我慢できない読者もいるかもしれない。本が好きで、読んだ本は概ね高く評価するような人もしかりだろう。筆者は何でも高く評価するような読み方は苦手なので、小谷野の断定口調は嫌いではない。

 

そうは言っても、作品に対して、「面白い」「すばらしい」「面白くない」などの形容詞を連発するも、なぜ「面白い」のか「面白くない」のかが語られない場合が多く、納得感はあまりない。本書のAmazonレビューでもそれは指摘されているところだ。全体的にふわっとした文体で、彼の芥川賞受賞作にまつわる雑学がメインだから、批判的な見方が出るのは当然のことだと思う。

 

小谷野の良いところは、評価する基準に「面白さ」や「退屈さ」を置いているところだ。面白い(退屈でない)作品は良いし、退屈な(面白くない)作品はダメだ。

例えば滝口悠生を紹介した箇所で、この受賞作は退屈だと良い、「退屈なのは良くないと私は考えている。そういうものに芥川賞を与えるから、世間では純文学とは退屈なものだ、と思うようになる」と言う。

もう少し説明をして欲しいと思うが、単純に、退屈な作品はいけない、もっとストーリーを面白くしたり、人物設定をしっかりしろ!とまで深読みすれば、彼が言っていることは分かるような気がする。

 

 

芥川賞の偏差値』で一番面白い箇所は、「まえがき」である。普通まえがきは読み飛ばしたくなるが、本書ではしっかりと読みたい。

興味深いのは、以下に引用したように、芥川賞は新人賞なのに、いつしか文壇最高の収穫のように扱われることになったという指摘である。新人賞が文壇最高というのは、他国ではあり得ないだろうが、日本では実質的にそうなっている。

ともあれ文壇最高というのは、マスコミがテレビやネットなどを使って騒がしくしているだけのことで、小谷野が指摘するように、芥川賞受賞作に共通して言える性質は「面白くない」ことなのだから、騒ぐほどに作品の質は担保されないということだ。

 

また、引用した箇所ではもうひとつ興味深いことを指摘している。西村賢太の受賞作を引き合いに、西村の本領は違う領域にあるのに、なぜか受賞作は本領ではない作品が受賞したという部分だ。

芥川賞受賞作の性質が「面白くない」ことを書いた部分でも、小谷野は、「同じ作家でも、ほかに面白い小説はあるのに、芥川賞に選ばれるのは、面白くないものが多く、また候補作の中でも、面白くないものを選ぶという性質がある」と言っている。

確かに芥川賞受賞作は退屈な作品が多いことは、同意できる。ただ、ここまで言い切られると、純文学に接していない者がマスコミの報道で「試しに読んでみるか」と、芥川賞受賞作を手に取ったら最後、二度と純文学を読んでもらえなそうな気もする。

 

ところで、芥川賞は新人賞である。だがいつしか、その受賞作が、その年の文壇最高の収穫のように扱われることになった。もちろん変である。たとえば西村賢太の受賞作は「苦役列車」だが、西村の本領は「秋恵もの」であって、「どうで死ぬ身の一踊り」で受賞すべきだった。しかし「苦役列車」は映画化もされ、最新の「文学年表」にも載っていたりする。変である。

 

 

彼が最高の偏差値を付けていた最近の芥川賞受賞作『コンビニ人間』は、筆者は未読なので論評できないが、Amazonの「あらすじ」を読む限り面白そうな雰囲気がする。少なくとも又吉の『火花』よりは読んでも良いかなという気になるが、芥川賞作品に1400円は高価過ぎるので中古で買おうか。同作は既に50万部の売り上げを超えた作品のため、図書館では人気過熱で、実質的に借りることが出来ないのだ。

芥川賞受賞作に感心したことがほとんどないので、作家に印税を払いたくないのである。だから普段は図書館で借りるようにしているが、こうも人気があると借りることが出来ない。だからといって新刊で買うと印税が入ってしまうから、中古で買う。