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【映画レビュー】 女が眠る時 評価☆☆★★★ (2016)

ウェイン・ワン監督について

『スモーク』で有名になった香港出身のウェイン・ワン監督が日本人キャストで撮った映画。『スモーク』で有名になったといっても、『スモーク』は1995年の映画なので、いったいその後ウェイン・ワンは何をしていたのかという気がする。『スモーク』はポール・オースターというアメリカの作家が原作の映画だが、『女が眠る時』もハビエル・マリアスというスペインの作家が原作である。ウェイン・ワンは『スモーク』の他に『ブルー・イン・ザ・フェイス』でもポール・オースターと組んでいる。
私はオースターの小説では『幽霊たち』という小品が好きだ。ただ、『リヴァイアサン』『ガラスの街』なども読んだがいまひとつだった。あんまり好きな作家ではない。

『女が眠る時』の怱那汐里はミスキャスト

この映画ではビートたけしがクレジットの最上位にきているが、本来の主演は西島秀俊でたけしは脇役である。怱那汐里がヒロイン役。たけしが演じる役は、外見がもっと知的な役者の方が良いな。たけしは映画監督としては素晴らしいが、演技力は高くないから別の俳優の方が良かった。西島秀俊一発屋の作家を演じていて、それなりに上手い。だが彼が服を脱ぐシーンがあるが、あまりにも体を鍛え過ぎていて作家らしくない。三島由紀夫みたい。服さえ脱がなければ細身に見えるし、表情も陰鬱なので作家という感じがする。

怱那汐里がヒロインとしては非常に地味で、顔があまりきれいではない。メイクを濃くするとフィリピンパブのナンバーツーみたいな雰囲気になってしまう。こんな怱那にビートたけしがのめりこんでいるというが、ちょっと、どうなんだろうか。西島秀俊もたけしと怱那の関係を気にするというけれど、気になるかなあ。有村架純あたりが演じてくれたら、上品さの中に妖艶さが垣間見えてエロティックだった。
怱那は、少女の頃からたけしが面倒を見ていて、美しくなり、自分の元を離れようとする彼女を何とかして留めたいという設定なのだが、怱那にそんな魅力はないので拍子抜け。谷崎潤一郎の『痴人の愛』のナオミのような、少女と娼婦とを混交したかの如き存在感がないと物語に没頭できない。

眠れる美女』を彷彿とさせる設定

ビートたけしは、怱那汐里が眠っているところを毎年、ビデオカメラに収めている。女が眠っているところの美しさを保存しておきたいのだそうだ。何だか川端康成の名作『眠れる美女』のパクリみたい。『眠れる美女』の場合は複数の美しい女性が出てきて読者を楽しませてくれるが、『女が眠る時』はわずか一人の女性。
眠れる美女』の場合は、眠れる美女を前にして絶対に性交できないという設定で、永遠に手に入れられない女性像が非常に面白かった。この映画にはそういう面白さがない。


多少良いところも

箸にも棒にもかからない映画という訳ではなくて、作家を演じる西島秀俊の沈思黙考する表情や行動は良かったと思う。チョイ役の新井浩文も良い。