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【映画レビュー】 グレイテストショーマン 評価☆☆☆☆★ (アメリカ)

グレイテストショーマンはミュージカル映画

『グレイテストショーマン』はミュージカル映画。実在の人物P.Tバーナムのサーカスビジネスの成功を、「社会からの隔絶者」の存在価値の高揚と絡めて描いたヒューマンな作品に仕上がっている。『レ・ミゼラブル』でジャン・バルジャンを熱演したヒュー・ジャックマンが主演。

貧乏人がサーカスの興行師として成功するまで

時は19世紀の米国。P.Tバーナムは、仕立て屋の息子で、貧しい生活を余儀なくされていた。バーナムは下層階級に位置し、パンを盗んで店主から袋叩きにあうほどであった。ある時、資産家の家に行くとそこには美しい娘チャリティがいた。恋に落ちた二人は、大人になりチャリティの両親の反対を押し切って結婚する。

貧しい生活ながらも幸せな生活を送っていたいチャリティに対し、チャリティの両親を見返したい、社会を見返したいと願うバーナムは、ある時、髭が生えている女、小人症の男、巨人症の男、犬男、黒人たちを使ったサーカスを興す。社会から隔絶されていた人間を舞台に立たせる、いわば見世物小屋である。最初は興味本位で集まる客ばかりだったが、次第にサーカスの面白さに引き込まれた客に評価を得て、バーナムはサーカスの興行師として大成功する。

失意のどん底

バーナムはサーカスの興行師として大成功を収めた。しかしバーナムは、幼い頃から、チャリティの両親を見返したい、社会を見返したいという気持ちがあり、成功してもなお、その思いは消えることがなかった。フィリップ・カーライルという一流の劇作家と出会い、彼のツテで英国女王に会ったり、その席でジェニー・リンドという一流歌手と出会いをする。

特にジェニー・リンドとの出会いはバーナムを変えてしまい、見世物小屋は「偽り」でジェニーの一流の歌声こそ「本物」だと誤解する。バーナムはジェニーの米国ツアーを取り仕切って、サーカスはフィリップに任せるようになる。しかしある時、火事が起きてサーカス小屋は全焼、無一文になってしまったバーナムは失意のどん底に落ちてしまう。バーナムは敗北してしまった。

どんな人間にも価値がある

失意のどん底に落ちてからの展開が魅力的で、バーナムが自分を慰めにバーに入り浸っていると、小人症のトムが来る。そして次々にサーカスの出演者たちがバーを訪れ、バーナムに話しかける。

素晴らしかったのが髭が生えている女(This Is Meを歌っている女)で、彼女はバーナムが自分たちをバーナムのビジネスのために使われていることを見抜いていた。その上で、自分たちが社会から隔絶され、存在なき者とさえ扱われていた事態から、サーカスが、そしてP.Tバーナムが、自分たちを救ってくれたのだという。

私は髭の生えた女の台詞を聞くまで、バーナムは貧乏という以外の欠点がなく、日陰者たちを使ってサーカスを興行したのか今ひとつ分からなかった。この台詞によって、バーナムは単に金儲けのために日陰者たちを使ったに過ぎないことが明確になり、バーナムの人間臭さに好感を持った。

そして、バーナムがビジネスのために自分たちをサーカスで使ったことを知っていながら、自分たちが表舞台に立てたことに喜ぶ日陰者たちは、バーナムと並ぶ本作品の主人公であることがイメージされる。日陰者が永遠に日陰にいるのではなく、表舞台に立って輝いて良いということ。バーナムのサーカスはそれを成し遂げたのだ。たとえそれが、ビジネスのためであっても、日陰者たちが主体的にサーカスで楽しめれば、それで良い。月並みだが、「どんな人間にも価値がある」というメッセージは上手く表現されていたと思う。

敗北を乗り越えて

敗北を乗り越え、新しいサーカス小屋でパフォーマンスを繰り広げるシーンは圧巻で、本作品の最大の見所となっている。映画の冒頭で、P.Tバーナムが「グレイテストショー」の曲に乗り、出演者と共に踊るシーンが描かれていた。観客には、いつのことを描いているのかわからないままストーリーが進行するけれど、実はこの新しいサーカス小屋のパフォーマンスに繋がる。

音楽が素晴らしい

『グレイテストショーマン』はミュージカル映画である。だからといって音楽が素晴らしいとは限らないが、本作の音楽は良い。「グレイテストショー」や「This Is Me」も良いし、ジェニーが歌う曲も良かった。フィリップ・カーライルも歌がうまかったが、ジャスティン・ビーバーに似たちょっとかすれた声だった。

説明不足のストーリーが少し気になる

『グレイテストショーマン』には欠点もあって、主たるストーリーは良いのだが、説明不足のシーンが少々見られた。一番よろしくなかったのが、バーナムは、ビジネスのために日陰者をサーカスで使っているに過ぎないという描写の不足だ。バーナムが「俺はあいつらに共感なんかしていない。ただ金を儲けたいだけなんだ」という台詞を入れるとか、サーカスを始める動機が不純であることをバーナムに喋らせるとか、そういう描写が欠けている。バーナムがサーカスを売り込むにあたって、ポスターを刷るが、そのポスターが奇抜でただの見世物小屋に過ぎないことを想像はできるが、バーナムがどう思っているか、ということが知りたかった。

おそらく観客は何となく、バーナムはただ単に金儲けをしたいだけの偽善者なんだろうなとは思うが、もっと分かりやすい納得感が欲しい。純粋なフィリップと話して「俺は自分だけが大事なんだ」と言って、フィリップに軽蔑されるとか、描写が足りなかった。

あとは、ジェニーがバーナムを称して、想像力があるからサーカスが成功したというシーンがあったと思うが、なぜバーナムにそんな想像力があるのかが分からない。ちょっとでも良いので、貧乏だったけれど本が異様に好きだったなどというような描写があるとなお良い。確かに、バーナムの奇抜な発想のお陰で、サーカスは成功したのだろう。でも、なぜだ?それが分からない。ただの思いつきだと、ちょっとつまらない。まあ『ラ・ラ・ランド』みたいに女優がいきなり大女優になっちゃうみたいな飛躍がないだけマシではあるが。