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【書評】 音楽 著者:三島由紀夫 評価☆☆★★★ (日本)

音楽 (新潮文庫 (み-3-17))

音楽 (新潮文庫 (み-3-17))

三島由紀夫による精神分析風の小説。三島由紀夫が、門外漢ながら精神分析学を勉強しているんだなぁという雰囲気は伝わるが、ただそれだけ。

セックスに不感症な女性が主人公。三島由紀夫は、『鏡子の家』にしろ『夏子の冒険』にしろ、無気力な人間を描くことが多いと感じるが、やはりそれは自身の戦後の倦怠感に由来しているのだろうか?『音楽』の主人公も性に倦怠感があり、セックスをしても感じることができない。そして、精神分析医の元を訪ね、精神分析の治療をしてもらう…というストーリー。

精神分析医という職業が今もあるのか知らないが、『音楽』の精神分析医は話を聞いてアドバイスをするだけで薬物治療は行わない。心理カウンセラーのような役割を担っている。在野の哲学者のよう。こんな仕事で医者を名乗っていたのか…牧歌的な時代があったものだと、しみじみ感じる。

【書評】 営業の心理学 売れすぎて中毒(ヤミツキ)になる 著者:神岡真司 評価☆☆☆☆★ (日本)

売れすぎて中毒になる 営業の心理学

売れすぎて中毒になる 営業の心理学


顧客に、新規開拓をしない営業がいるという。恐らく、人事評価制度がうまくいっていないのだろうが、顧客には、社外の人間に制度設計を依頼する文化がない。外部に依頼するのはあくまでも研修だけだ。しかし制度設計の仕事が取れないからといって手をこまねいている私ではない。

だから私はせめて、「営業向けのレクチャーをさせてもらえませんか?」と言ったら、「私どももそう思っていたんです」との返事。まるで両思いのようじゃないかと有頂天になった。

営業本は面白い


そういう訳で、私は営業担当向けのレクチャーをすることになった。といっても私は営業マンではない。そんな人間が営業向けのレクチャーをするって?ちょっと無謀にも思える。

ただまあ、コンサルティングをしていると、やったことがないことをやることもある。レクチャー用にいくつか本を読んだが、良かったのだけ紹介する。今回の『営業の心理学』である。

あとは、『営業』というタイトルの本だ。どストレートで奇妙なタイトルだが、副題には「野村證券伝説の営業マンの「仮説思考」とノウハウのすべて」とあるので、副題の方がキャッチーかもしれない。

営業 野村證券伝説の営業マンの「仮説思考」とノウハウのすべて

営業 野村證券伝説の営業マンの「仮説思考」とノウハウのすべて


最近買った『LINE@”神”営業術』『コストゼロでも効果が出る!LINE@集客・反則ガイド』というのも面白そうなので、読んでみるから、時間があったら紹介するぜ。


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コストゼロでも効果が出る!  LINE@集客・販促ガイド (Small Business Support)

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新規開拓がうまくいかない人のための本


本書はどんな人向けか?

帯を見ると、「トップセールスの人は、どんな心理テクニックを使っているのか?」とある。そして、そのコピーの隣には、営業がいかにも困ってそうな事例が羅列されている。

テレアポでガチャ切りされる
飛び込みをしても、無愛想に追い返される
雑談が苦手で、会話が続かない
他社製品より自社製品のほうがいいのに説得できない
あとちょっとのところで、いつもクロージングがうまくいかない


いわゆるルート営業向けの本ではないことが一目瞭然であろう。むしろ新規開拓がうまくいかない営業担当向けの本である。「新規開拓をしない営業向け」ということでいえば、確かに本書は適切である。

ザイアンスの法則


本書にはいくつかの心理学が紹介されているが、繰り返し触れられるのが「ザイアンスの法則」だろう。この概念はアメリカの心理学者ロバート・ザイアンスが提唱したものである。本書では以下のように紹介されていた。

1 人は、知らない人には攻撃的、批判的、冷淡に対応する。
2 人は、会えば会うほど相手に好意を持つ(単純接触の効果)。
3 人は、相手の人間的側面を知った時、より良い好意を持つ。


例えば法則「1」。

なるほど。人間は見知らぬ相手には冷淡に対応するものなのだ。だから、営業が、「顧客に冷淡に扱われた」と言って嘆くのを見て「大変だよな」と、飲み屋で同情するのも良いが、一方ではそういう扱いを受けるのは、当たり前のことなのである。

こういう理論を知っているだけで、安心しないか?私が営業なら安心する。
「なんだ、当たり前の扱いを受けただけだったのか」って。

だからって「馬鹿野郎!二度と来るんじゃねえ」と、残飯を漁る野良犬を追い払うように怒鳴られたら、誰だって嫌な気持ちにはなる。しかしそれでも、ザイアンスの法則「1」を知っていると知らないとでは、気持ちの落ち込み方も違うだろう。

それに、今度紹介予定の『営業』では、営業は確率の世界だと書いてあった。つまり100件回って、1件の仕事が取れることが分かっていれば、怒鳴られようが無視されようが、確率のひとつに過ぎないということである。ザイアンスの法則と並んで、面白い考え方だろう。

相手に親切に応じてもらうには?


見知らぬ人に、冷淡に接するのは分かった。それでは、相手はどういう時に親切に応じるのだろうか?本書では次のように書く。

「人間の行動原理」には、「利得最大化」「返報性」「共通項・類似性」「社会的証明」などがあります。


つまり顧客は、損するよりも得をしたいし、親切には親切で返したいし、共通項があると共感しようと思うし、皆が「良い」と支持するものを支持するのである。だから、新規開拓の際には、顧客が得をできるような提案(利得最大化)をしたり、売りたい商品が市場でどのように評価されているかなどの情報を提供(社会的証明)したりするべきなのだ。

人の心理がこのようなものであると知っていると知らないとでは、新規開拓営業に対するスタンスが違ってくるだろう。

(どうでも良いが、ザイアンスの法則は恋愛にも応用できると思うので、そっち方面で使ってみても良いと思う…笑)

喋るのをやめて質問する


私が「嫌だな」と思う営業のタイプが「しつこい営業」である。恋愛と同じなのだが、「嫌い」とか「苦手」と思ったらもう、その人を好意的に思えないのである。ザイアンスの法則「2」では、「人は、会えば会うほど相手に好意を持つ」と書く。逆にいえば会えば会うほど相手に嫌悪感を持つこともありうるが、これがまさに私が例示したことと一致する。

本書でも、営業は喋りすぎるなと書いている。むしろ、顧客の「隠されたニーズ」を引き出すために「質問せよ」と書く。ただし、どんな質問でも良い訳ではない。例えば「御社の従業員数は何名ですか?」などというような質問をされると、豊田真由子のように怒鳴ってやりたくなるが、企業の会社概要を見れば誰でも分かるようなことを質問してはいけない訳だ。

ある程度の情報を用意した上で、こういう質問をすると企業が「おっ!」と思うだろうなという質問をすることが肝要だ。いくつも質問をしていくと「実はね…」という、顧客の隠されたニーズを引き出せるというのは、興味深い。

数字のマジックを使い倒す


最後に紹介するのが「数字のマジック」。本書では以下のように書いている。

※「タウリン1000mg配合」の栄養ドリンクは、タウリンがたったの1gの配合です。
(略)
※「本日は50人に1人、お買い上げ料金が無料」は、たったの該当者2%にすぎません。
(略)

いかに普段、我々が数字に騙されているかを物語るものだが、しかしこういったマジックに騙されるのが私たちなのだから、使わない手はないだろう。


こんな感じで、面白い心理学の用語を用いながら、どうやったら営業がうまくいくかということが書かれているので参考になった。

【書評】 ゲームにすればうまくいく 〈ゲーミフィケーション〉9つのフレームワーク 著者:深田浩嗣 評価☆☆★★★ (日本)

 

ゲームにすればうまくいく 〈ゲーミフィケーション〉9つのフレームワーク

ゲームにすればうまくいく 〈ゲーミフィケーション〉9つのフレームワーク

 

 

ゲーミフィケーションで動機づけを高めよう

 

ここ最近、顧客の研修用の企画を考えていて、参考になると思った考え方が「ゲーミフィケーション」だ。ゲーミフィケーションとは、本書では「ゲームの要素を、ゲーム以外の領域で活用していく」ことを指す。『ゲーミファイ』という本では、ゲーミフィケーションは動機づけに有用だと言っているが、本書でもその文脈で読める。

 

例えば本書にも例示されていたタカラトミーの人生銀行がある。これは「貯金」という退屈な行為を、ゲームを使って楽しくして、貯金の動機づけを高めようとするゲーム感覚の貯金箱だ。

 

人生銀行は、500円を入れるたびに画面の中にいる”人間”が成長していくというゲームになっている。

 

「貯金箱の住人」が三畳一間の生活からスタートし、貯金額が増えるのにしたがって、広い部屋へ引っ越したり、就職・恋愛・結婚をするなどの物語が展開します。 

 

目標金額に到達しなければ、残念なエンディングを迎えることになる。まるで、RPGかアドベンチャーのようなストーリーが展開されるという訳だ。貯金する人は、なんとか良いエンディングを迎えさせようと、貯金し続ける。貯金の動機づけが高まり、貯金額も増えて目標額に到達できるという仕組みだ。

 

 

人生銀行

人生銀行

 

 

人生銀行 for iphone

人生銀行 for iphone

 

 

ゲーミフィケーションと内発的動機づけ

 

 

内発的動機づけとは、エドワード・デシの著書で有名な心理学の概念である。

人を伸ばす力―内発と自律のすすめ

人を伸ばす力―内発と自律のすすめ

 

 

 

ゲーミフィケーションで有用なのは、この「内発的動機づけ」である。人生銀行を通じて、「貯金そのもの」が楽しくなれば内発的動機づけが働いている。楽しくなければ続かないというより、楽しいものこそ継続性があるのである。

 

そしてこれを貯金ではなく、「仕事」に置き換えたらどうなるか。仕事は仕事ゆえに安楽にできるものではないし、苦しいものである。しかしそれだけが全てではないだろう(ブラック企業の場合でそれを言うと、ブラックユーモアになってしまうが)。

 

 

本書は、事例がもう少し面白ければ評価できたと思う…

カラオケ

長かった年末年始休暇も今日で終わりだ。

明日から、再び仕事が始まる。

休暇中は何をしていたかというと、子どもと遊んだり、ビジネス書をたらふく読んだり、長編小説を一本書いたりしたくらいだ。

正月に友だち夫婦が来てくれた。旦那さんの方とはあまり会ったことがないが、奥さんはうちの妻を経由して知り合って主にSNSで交流している。会って話すのは久しぶりだ。今は仕事をしていないが、私が紹介したウェブライティングの仕事をバイト感覚でやっていて、結構楽しいと言う。旦那さんと会うのはもっと久しぶりで痩せたように見えたが、私が単に太っただけかもしれない。まあ、見ていてくれ。正月太りを一気に解消してみせる!(本当ですかぁ?)

今日は休暇の最終日なので、書いた小説を見直してみようかと思ったが、妻がカラオケに行きたいというので、行ってみる。私はポルノグラフィティの「アポロ」、稲垣潤一の「今夜君は僕のもの」、郷ひろみの「おっくせんまん」を歌った。
稲垣と郷ひろみの曲名は覚えていない。稲垣は確か、キムタクと松たか子のドラマの主題歌だったと思う。私は日本の曲はほとんど知らないので、こういうしぶい選曲になる。日本の歌手だと宇多田ヒカルが好きだが、男の声で歌いづらいのでやめた。ああ、そうだ。あと、エヴァンゲリオンの主題歌も歌った。でもカラオケの映像でエヴァンゲリオンが流れたので、子どもの目の前で歌って良いのかと思った。私はエヴァンゲリオンが好きだが、子どもには見せたくなかった。

PS:会社の親しい同僚から、「海外の仕事が決まるかもしれない」という生意気なメールが届いて、「何言ってんだバカ野郎。私だって海外の仕事をしてやる」と思いながら、私の今年の仕事が始まる。

【書評】 みずうみ 著者:川端康成 評価☆☆☆★★ (日本)

みずうみ (新潮文庫)

みずうみ (新潮文庫)

陰鬱で地の底を這う蛇のような作品


『みずうみ』は川端康成の中編小説。美しい女を見ると、憑かれたようにあとをつける男が主人公。現代のストーカーのように女のあとをつける桃井銀平の不気味さは、読んでいて背中がざわざわさせられる。陰鬱で地の底を這う蛇のような本作は、読む者の足元を毒牙で噛んでくる。読者は『みずうみ』の桃井銀平のストーキングぶりに嫌悪しながらも、彼の行動やセリフに注視せざるを得ない。そしていつの間にやら、桃井銀平の不気味さの虜となっているのだ。

意識の流れ


私が読んだ『みずうみ』は新潮文庫版で、文庫の背表紙を見ると『みずうみ』は「女性に対する暗い情念を”意識の流れ”を描写」しているとある。その通りで、『みずうみ』は筋道が通った論理的な小説ではない。ストーリーはあたかも川の流れのようで、流れる川の途中に石が止まり、そのために流れが遮断されたり、流れが交差したり、流れが分割していったりする。ストーリー展開がぽんぽんと変化していく様は、まるで夢を見ているかのようだ。

桃井銀平の気色悪さ


桃井銀平の気色悪さは、例えばこんな描写に表れている。彼が風俗に行き、湯女に髪を洗ってもらっているシーンだ。

「あんたの声は、じつにいい声だね。」
「声・・・・・・?」
「そう。聞いた後まで耳に残っていて、消えるのが惜しい。耳の奥から優にやさしいものが、頭のしんにしみて来るようだね。どんな悪人だって、あんたの声を聞いたら、人なつかしくなって・・・・・・。」

こんなセリフは、恋人から言われなければ不気味で、銀平が女に馴れていないというより、女に対する自分の支配や執着の心がそう言わせているのである。その他にも銀平は湯女に、故郷はどこかと聞いたが相手が答えないので「天国か?」と言ったりする。変態のような銀平に読者はぞっとするが、こういった銀平の不気味な描写が執拗に続くと、だんだん読者は銀平の薄気味悪さが癖になっていく。そして、いつの間にか、銀平の不気味さが癖になっているのを発見するだろう。

それと、銀平は元教師なのだが、教え子と恋愛し、しかも肉体関係まで持っているのだ。もう本当に最低な男なのだが、このクズ男ぶりが、やはり読み進めていくにつれて、癖になる。もっと変態で、不気味で、クズっぽさを見せて欲しいと思うようになる。どことなく、桃井銀平が谷崎潤一郎の初期短編に出てくる、女を虐待する男に似ていると感じた。