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【書評】 実践 アクションラーニング入門 著者:マイケル・J・マーコード 評価☆☆☆☆☆ (米国)

 

実践 アクションラーニング入門―問題解決と組織学習がリーダーを育てる

実践 アクションラーニング入門―問題解決と組織学習がリーダーを育てる

 

 アクションラーニングによる人材開発プログラムの開発者、M・J・マーコードによるアクションラーニング入門書。翻訳はマーコードが設立したアクションラーニングの世界的組織GIAL、その日本法人の代表者等によるもの。翻訳者2人は、いずれも、ジョージ・ワシントン大学院にて、マーコードから直接指導を受けた。

 

入門書というだけに、本書は平易な文体で書かれており、実際の事例も多数書かれていて、アクションラーニング(AL)の何たるかを効率的に習得するには最適な「教科書」と言える。翻訳者もマーコードの言わんとする意図を汲んで訳しているから、ALの理解の助けになる。

 

 

ALは1940年代、レグ・レヴァンスという英国の物理学者によって紹介されたが、近年、人材開発の観点から多数の組織をまたいで広がりを見せているという。ボーイング、ゼネラルエレクトリックなどのグローバル企業や公共機関、米陸軍、そして世界中の企業が「問題解決」や「リーダーシップ開発」のために採用しているのだ。

 

ではALとは一体何であるか。マーコードは次のように定義する。

 

実務を通じたリーダー育成、チーム・ビルディング、組織開発を効果的に行う問題解決手法である。

 

実務」ということがポイントで、架空のケーススタディではなく、実際の仕事における「真の問題」を発見し、その問題を解決することで、人材開発に繋げる手法なのである。

 

ALを行うためには1対1ではなく、4~8人のグループを組むことが良い。即ち、グループを組んで質問を投げ掛け合い、実務における「真の問題」を発見し、問題解決に導いていく。

 

ただし、グループにおいては、メンバーに意見や考えを述べさせることよりも、「質問」と「振り返り」を重視する。特に「真の問題」に迫るためには、「あなたの言っていることはこうだ」(答え)であるとか、「その問題についてはこのようにしたら良い」(意見)を言うのではなく、「質問」と「振り返り」によって、本当にその問題は、あなたにとって「真の問題」なのか?を問うのである。そして、問われたメンバーは、内省し、もっと別の問題が自分にはあるのかもしれないと考える。そして、いくつかのセッションを通じて、そのメンバーにとっての「真の問題」があぶり出される。きわめてスリリングなやり取りになろう。

もちろん、メンバーという個人にとどまらず、グループ共通の「真の問題」を考えても良いのである。

 

「真の問題」とは、緊急性が高く、重要でなくてはならない。直ぐに解決できたり、先延ばしに出来るような問題をALでは「真の問題」とは呼ばない訳である。

 

マーコードは、真の問題へと至るプロセスが重要であると言う。「間違った問題に取り組み、いくら質の高い解決策を編み出しても、何の役にも立たない」と。

グループ内において「真の問題」はこれであるという合意形成が取られないままに問題解決のプロセスを進めてしまうと、当然ながら解決策の合意が取られないことになってしまう。従って、ファシリテーターならぬALコーチなるものの存在が非常に重要なキーとなってくる。コーチは、メンバーが「真の問題」へとたどり着けるように、質問させ、合意を取らせる訳である。

 

 

「真の問題」があぶり出された後は、解決策についても検討しなくてはならない。そのために行動計画を作成し、解決策を提示し、メンバーの合意を得るのだが、ALが興味深い点は、解決策を作成することで終わらないことである。

 

アクションラーニングは、ラーニングと付くだけあって人材開発という名の「学習」効果を得られる。即ち、行動計画と解決策を作成するにとどまらず、実際にその問題の当事者に「行動に移す」ことを求め、問題解決のプロセスを辿らせるのが、ALなのである。

 

アクションラーニングは、単なる分析の機会を与えるのではなく、行動の必要性を感じる機会を与える。レグ・レヴァンスは「テニスのボールを実際に打つまでテニスを学習したことにはならず、個人やグループは実行の機会を得ないかぎり、学習にはならない」と述べている。

 

「実務」における真の問題をあぶり出し、その問題の解決策を提示し、そして問題解決に向かって行動していくということ。ALの人材開発の重要性は本書によって、読者の眼前まで差し迫ってくることだろう。机上の空論ではなく、実務の中にこそ、真の問題はある。分析だけではなく、行動を求める。本書を読んでいて、なんだか、実践を重んじる経営学者ミンツバーグを想起したのは、筆者だけか。

本書を読んだだけでALを自社内に採用することは、もちろん出来ないので、悪しからず。それこそ分析重視であって、実践を経なければ習得することは出来ないのである。そのためには金がかかる訳だが、本当に良いと思ったらコンサル会社の門を叩くように。