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【書評】 デジタルマーケティングの教科書 5つの進化とフレームワーク 著者:牧田幸裕 評価☆☆☆★★ (日本)

デジタルマーケティングの教科書

デジタルマーケティングの教科書

デジタルマーケティングについて分かりやすく教えてくれる

『デジタルマーケティングの教科書』は、外資コンサルティング会社出身で、現・信州大準教授の牧田幸裕によるデジタルマーケティングの入門書。

仕事で顧客と話していると、専門の人事領域の話が大半であるが、それだけで会話が終了しないこともある。むしろ、マーケティングの話題は避けられない。特に経営者とか、人事のマネジャーなどと話していると、人事領域の話で終わらない。会話の端々に実践的なマーケティングが顔を現すのだ。だからマーケティングの関連書を渉猟しているところだった。

その中でデジタルマーケティングを分かりやすく教えてくれる書籍はないか?と探していたところ、本書にいきあたった。入門書というだけあり、平易な言葉で書かれ晦渋なところはほとんどない。デジタルマーケティングの定義は分かり辛く、もう少し端的に述べるべきとは思ったが、デジタルマーケティングが既存のマーケティング(従来型マーケティングという表現を使っている)の進化系とあって、従来型マーケティングの構造を理解しておればデジタルマーケティングの中身が分かるようになっている。こういった配慮をして頂けると初学者にはありがたい。

従来型マーケティングって何?

本書は従来型マーケティングの進化系としてデジタルマーケティングを捉えている。それゆえに、従来型マーケティングの構造はしっかりと理解しておく必要がある。本書の2章がそれにあたるが、フィリップ・コトラーマーケティング戦略策定プロセスについて丁寧に説明している。初学者は2章を最低5回、熟読して欲しいというくらい重要な知識となる。

しかしながら、いくら熟読したとしても、2章に割かれたページは20ページに満たないので、コトラーの入門書を読まないと充分な理解は覚束ないだろう。従来型マーケティングの知識がデジタルマーケティングを理解するための土台というなら、もう少し紙幅を増やすべきだったと思われる。とりあえず本書では「マーケティング環境分析」「マーケティング戦略立案」「マーケティング戦略実行」「マーケティング戦略管理」などのポイントを押さえられる。ものたりないと思うが。

デジタルマーケティングから「デジタル」が消える日

従来型マーケティングとデジタルマーケティングはどう違うのか。従来型マーケティングは、環境分析を使って「過去」の変化を重視した未来の予測をする。「これは未来が過去の連続性の中にある場合、機能する」と著者は言っている。しかし、「世の中の変化が大きい場合、または連続性がない場合」は、従来型マーケティングでは太刀打ちできない。そこでご登壇頂くのがデジタルマーケティング環境分析ということになる。

未来を定義したうえで、どうすればその因果関係が太くなるのか、それを考えるのが、デジタルマーケティング環境分析なのである。

過去からではなく、まず未来から考えるということ。ここに大いなる差が存在する。過去と、現在のマーケティングとの間に。

デジタルマーケティングは、定義そのものも浮遊する新しい概念だ。だが、著者は、いずれデジタルマーケティングという用語はなくなるという。すなわちデジタルマーケティングの方法は普遍的となるので、いずれ常識的となるから、単にマーケティングと呼ばれるに過ぎないものとなる。その日が来るよりも先にデジタルマーケティングについて知り、実践することが企業にとって市場を掌握できるか否かの試金石となるだろう。

デジタルマーケティングの「5つの進化」、特に消費者理解が面白い

デジタルマーケティングの「5つの進化」というのは、「環境分析」「消費者理解」「セグメンテーション」「チャネル」「プロモーション」の5つ。環境分析は上記でも触れた。面白かったのは「消費者理解」の項で、電通のAISASと、グーグルのZMOTを手がかりに消費者理解を説明していた。

AISASというのは5つの言葉の頭文字を統合した造語で、A(広告を見る)→I(興味を持つ)→S(調べる)→A(購入する)→S(共有する)の流れで消費者は行動すると説明している。ネットが発達した現状、特に「調べる」という行動は、私たち消費者は本当によくやっていると思う。広告を見た(A)後にそのまま商品を買うばかりではない。現実の口コミを聞くこともあるが、ネットで調べることが多いのではないか。同じ口コミでもネットの口コミを参考にするのではないか。Amazonのレビューを見るとか。私なんかも、本はリアルな本屋で買うことも多いが、Amazonで買うことも少なくない。その時、あまりレビューの評価が低い本は、なかなか手に取り辛い。買いたいとは思えない訳だ。

S(共有する)というのは、ツィッターとかSNS、ブログなどで書くというのがそれに値する。買ったものを買っただけで終わらせず、ネットで発言する、つまり不特定多数の他者と共有するというのがデジタルマーケティング時代の消費行動である。

ZMOTはグーグルが提唱した概念で、「リアル店舗に足を運ぶ前に消費者はネットで検索するはずだ、そして製品やサービスの情報を得たうえでリアル店舗に足を運ぶはずだ」との仮説から生まれ出たもの。私は本を買う時にリアル店舗に行って、ネットの意見を頼りにせずに買うが、本を見ながら買って良いのかな?と迷うこともある。その時はネットの評判を検索するのだ。だからZMOTでいっている消費者行動はよく分かる。

チャネル(オムニチャネル)も面白い。キープレイヤーやデジタルマーケティング実践に求められる能力などは、あまり刺激的ではない内容で、蛇足のように感じたが、BtoC企業を対象としたデジタルマーケティングの入門書として全体的に分かりやすく、ポイントが押さえられていて良い本だったと思う。