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【書評】 新撰組 幕末の青嵐 著者:木内昇 評価☆☆☆★★ (日本)

 

新選組 幕末の青嵐 (集英社文庫)

新選組 幕末の青嵐 (集英社文庫)

 

 

私は学生時代に歴史が苦手であったし、今でも得意ではない。そのせいか歴史小説をほとんど読んだ例がないのである。私の父が愛読していた司馬遼太郎も知らない。谷崎潤一郎遠藤周作歴史小説や、松本清張芥川賞を受賞した『或る「小倉日記」伝』などは読んだことがあるが、歴史小説を本業としている作家の作品は読んでいない。だからこれが私にとっての最初の歴史小説と言えるかもしれない。

 

本作は新撰組についての小説である。私は歴史の知識が欠如しているといっても良いので、新撰組のこともよく分かっていなかったが、本作を読んでよく分かった。新撰組入門書として、適切なのかもしれない。もっと『新撰組』の関連書籍を読みたくなるほどである。といっても、本書は、入門書にしては、文庫版にして550頁超なので長大過ぎるか。

 

NHK三谷幸喜脚本の『新撰組!』が放送されていて、見たことがあるが、主人公の近藤勇を演じたのがスマップの香取慎吾で見るに堪えない酷い演技だったことと、山南啓助役の堺雅人が印象的だったことくらいしか覚えていない。今Wikipediaで調べて見ると、『新撰組!』では、沖田総司役に藤原竜也土方歳三役に山本耕史斎藤一役にオダギリジョーが配されていたので、随分と豪華な出演陣である。ほとんど狂人のような芹沢鴨を演じていたのが佐藤浩市であるが、あまり狂気的な匂いは感じなかった。『新撰組!』もちょっとしか見ていないのでストーリーはまるで覚えていないから、本作を読んでようやく新撰組のストーリーの型を知ったような気がした。

 

本作の構成は独創的である。明確な主人公はおらず、近藤勇土方歳三沖田総司、山南啓助、斎藤一(はじめ)、芹沢鴨など、それぞれがいわば主人公の群像劇である。10頁くらいでぽんぽんと主人公の視点が変わっていくので、新撰組の勃興と栄光、そして破滅までのストーリーの型を、複眼的な視点で捉えることができる。そして、群像劇に徹している点で、どのキャラクターにも魅力を感じることができることも特筆すべきだろう。ただし、この視点の切り替えは早すぎるという欠陥がある。それぞれのキャラクターの心の内面を描ききれないまま、次の視点、さらに次の視点へと移ってしまうからである。もっと人物の心情を掘り下げて欲しい。

 

私は最後まで生き残った者の一人、斎藤一が気に入った。生き残ることに執着する彼は私に似ていると思った。次に土方歳三である。新撰組の局長(組のトップ)である近藤よりも、彼の方が実力者だが、参謀役に徹したところが潔くて良いし、最後、函館で戦死してしまうところも哀愁が漂っている。農民出身で武士になることに憧れるあまり、形式に拘泥する近藤勇は好みではなかった。本作では近藤勇に対する批判的なセリフを吐く者が大勢いるのだが、特に私が感じたのが、現実を読み取ることができないところである。例えば、多くの者が幕府に危機感を感じているのに、近藤は幕府を支えることにのみ視点を置いてしまう。俯瞰的に物事を捉える視野がないのだ。芹沢鴨の粛清以来、近藤のような者をトップに据えたまま最後を迎えてしまった新撰組が悲劇を迎えるのは必定であろう。『新撰組』のストーリーは、組織の悲劇を見せられるようなものだということがよく分かる。

 

本作は群像劇に徹するという点で独創的な構成を誇るが、文体は淡白なので、もう少し艶があっても良い。大衆的な歴史小説だからといって、文章を洗練させなくても良いということではないだろう。粗野な文体ではないのだが、欲を言えばもう少々、文に色艶が欲しいところだった。また、新撰組が壊滅していく展開は簡潔すぎるので、急速な展開にしても良いけれども、迫力をもって描いてもらいたかった。群像劇として魅力を与えてきた人物、そして彼らが所属する組織の破滅であるから、あまり淡白では落胆させられる。

 

戦闘シーンもあっさりとしていて、戦闘を描写しているのに暴力性が足りない。グロテスクにまで執拗に戦闘を描く必要はなかろうが、幕府の暗殺集団としての新撰組の戦闘シーンは、ある程度暴力的でないとリアリティを感じ辛くなる。本作の戦闘場面はきれいで、優しいのであるが、戦闘がきれいで優しいはずはないから、会話、人物設定のリアリティに比べて虚構的な印象を抱いてしまった。

 

以上のような欠陥を抱えながらも、新撰組のストーリーの型を明確に捉え、群像劇として新撰組の全貌を複眼的に捉える手法は称賛すべきものである。会話や人物設定の巧みさは小説に臨場感を付与するに充分であった。

 

どうでも良い話だが、近藤勇の写真を見ていると、俳優の鈴木貴之に似ているような気がした。最近私はドラマの『僕たちがやりました』を見ているのだが、筋肉質の松崎役である。『僕たち~』での松崎はクレイジーな役だが、実際の鈴木貴之の写真を見ると細い眼ながらも、良い男で、近藤勇に似ているというと、鈴木貴之がかわいそうな気もする。土方歳三は小説中で役者にも見えるというほどの美男らしいが、近藤勇は残された写真を見ると冴えない風貌だからである。