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【書評】 コンピテンシー評価モデル集 著者:佐藤純 評価☆☆☆★★ (日本)

 

 コンピテンシーとは高業績者の行動特性のことをいう。ビジネスの現場では、主に人事評価制度や採用面接で活用される概念だ。後者については『コンピテンシー面接マニュアル』(川上真史、斎藤亮三)という良書がある。本書はもう一方の人事評価制度について書かれているものである。

 

コンピテンシー面接マニュアル

コンピテンシー面接マニュアル

 

 

 

本書はコンピテンシーの提唱者である米心理学者のマクレランドの理論を引用して、コンピテンシーとは「高業績者に共通する行動特性」のことであるとする。著者の豊富なコンサルティング経験を元に、12のコンピテンシー評価モデルの事例が挙げられていた。本書は事例の記述にページの大半を割いており、理論は序盤に軽く触れるに留めている。そのおかげで、本書は人事評価制度にコンピテンシー導入を検討する人事担当者にとって、有益な参考資料となっている。

 

12のコンピテンシーは以下の通り。

・成果達成志向

・コミュニケーション

・チームワーク

・マネージメント

・部下育成・指導

顧客満足

・自己研さん

・時間・行動管理

・論理的な問題解決

・組織における関係構築

・一般職と管理職のコンピテンシー評価の事例

・資格等級別のコンピテンシー評価基準と定義の事例

 

コミュニケーションやチームワーク、顧客満足等の人間関係的なコンピテンシーや、自己研さん、時間・行動管理、問題解決など思考的なコンピテンシーもある他、一般職と管理職のコンピテンシー評価を比較するなど、微に入り細にわたって解説されており、普遍的な評価モデルの事例は人事評価制度の再構築をする際に参考になるだろう。そのコンピテンシーの一つひとつに、著者の解説や、企業のコメントが付されているので、事例を並べるだけで終わったり、空虚で抽象的な内容に留まるのではなく、具体的で臨場感にさえ富んでいることが分かるだろう。

 

難点はいくつかある。

コンピテンシーの評価モデルは12あるが、区別しようとすればできるのに、人間関係、思考、比較などといったように区別化されていないので、12のコンピテンシー間に関連性がないように見えることだ。何らかの区別化が施されていると、読者も相互の関連性が分かり、より認識しやすくなると思った。また、序盤でコンピテンシーの抽出方法も書かれているのだが、事例にページ数を割くとはいえ、あっさりした記述で、人事担当者がコンピテンシーの抽出を実践する場合の参考にはなるまい。

コンピテンシーの事例は12あり、解説も企業コメントも適切なのだが、そもそも、もう少し分量があった方が「評価モデル集」としては活用できたと思う。量があれば良いという訳ではないが、コンピテンシーは12のままで良いから、パターンが2つあるなどすれば、汎用的になったのではないか。人事担当としては、1パターンの事例のみでは自社には合わないということもあり得る。しかしもう1パターン、別の事例を設けておけば、対象の範囲が広がる訳だから自社との接点の可能性も広がるだろう。私も本書を用いて顧客のコンピテンシーの事例を文章化しようとしたが、どうも合わない部分があり、もう1パターンあれば参考になるのだが・・・と思う節があった。かつて『コミュニケーション重視の目標管理・人事考課シート集』という書籍をレビューしたが、あれは網羅的に数多くの企業の事例があったので高評価したが、本書は目的とするところが異なるにしても、事例の数の少なさは否めないので、不満に感じる点であった。

 

 

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