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【書評】 ニッチを探して 著者:島田雅彦 評価☆☆☆★★ (日本)

ニッチを探して

ニッチを探して
島田雅彦

超久しぶりに読んだ島田雅彦の長編小説。彼の作品を読むこと自体、10年ぶりくらいになるかな?

日経の書評に出ていて、会社を辞めてホームレスになる話だったので、会社を辞めたい俺としてはそういう話にピンときちまうので、図書館で借りてみた(笑)

人生に疲れたとか、バリバリ働くだけが能じゃねえよとか、そういった作品かと思って読み進めたが、最後まで読んだ今となっては、読む前とはかなり違う印象である。

主人公藤原道長は、銀行の副支店長まで昇りめた男だが、融資するはずだった金を着服して、警察や銀行から追われる身となる。
だが、読み進めていくと、ホームレス生活を続けていく中でも、道長が着服した金を使わないことが不思議に思えてくる。
現在の所持金がこれしかないとか嘆いている道長に、読者は、着服金を使えば良いのでは?と思ったりするが、徐々に着服金を使わない理由が明らかになる。
その着服金は、道長の上司である支店長が、マフィアみたいな中国人とつるんで金を不正に掠め取ろうとしたのだ。
そして、道長は、支店長と中国人の首に縄をかけて、椅子から蹴落とす時を待っていたのだ。

危うく中国人に生き埋めにされそうになるが、何とか地中から脱出する道長に、俺はキルビル2のザ・ブライドを思い出した。

作者が、実際にホームレス生活をしたことがあるんじゃないか?というくらいに、そして、具体的な地名がよく出てくるが、その町を散策しているような気分にさせられた。

ニッチを探してという、どこか厭世的なタイトルとは裏腹に、最終的には支店長たちの不正を暴く物語に終わっている流れには異論もあると思う。
人生の隙間みたいなホームレス生活をニッチ、そのホームレス生活をしていくなかで、痴呆の中年女性と送った短い生活をニッチ...そう考えると、ニッチではなく正当な人生のレールに戻っていく道長に、作品のタイトルと違うことしてんなぁー!とか、この作品のテーマって、何だったの?と思わざるを得ない。

ホームレス生活、痴呆の中年女性との生活、そういった個々の描写は面白かったのだが、何でニッチを探していたと読者に思わせておいて、結局、正当な人生のレールに、戻っていくのかがよく分からない作品だった。
いいんじゃねーの!?とことんニッチを突き詰めても?って思った。それだとエンタメ性に欠けるから迫力はないだろうけど、テーマの一貫性はあったと思った。