結局、大いなる眠りは一日で読んでしまった。
村上春樹の翻訳がシンプルな文章で作られていて、無駄をそぎ落としているように感じられた。
俺の英語力では、チャンドラーの文章が複雑なのか、過剰なのか、あるいはシンプルなのかを確認する術はないが、村上春樹が、チャンドラーの文章について讃えているところを見ると、シンプルだったのではないかと思える。
村上自身がシンプルな文章を好んで書くからだ。
ストーリーについては、ハードボイルドだけに、探偵自身の緻密な推理が繰り広げられる訳ではないし、ストーリー上のどんでん返しもない。
以前に読んだ、チャンドラーのロンググッドバイと同様に、語り手である探偵を通して、都市の風俗や、探偵自身の、冷笑で、余り女と寝ようとしない孤高の生き方を、チャンドラーの世界観として感じるのが読者の楽しみだと思えた。
ヤクザが何人か出てくるが、探偵は、彼らの恫喝に対して、機知に飛んだ、しかしどこか相手の感情を逆なでする言葉を返して、動じない。
村上春樹が言うように、探偵は、自分の自由さを固守している。
自由であるためには強くなければならない。
この言葉の巧みさは、自由さを固守するために必須の技術であるように思える。
最後に、物語の終わりまで姿を見せないヴィヴィアンの夫が、探偵に仕事を依頼する、年老いた将軍(ヴィヴィアンの実父)の肉体的な衰えと共に、大いなる眠り=死について語られるラストが素晴らしかった。