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北野武監督の最新作『アウトレイジ最終章』を劇場で鑑賞。私は、初代とビヨンドは共に高く評価した。北野映画ランキングでもベスト10入りさせている。全て劇場で鑑賞したほど好きなシリーズで、今回で「最終章」と銘打たれているから、どんな結末を迎えるか期待していた。
残念ながら期待外れの平凡な作品におとしめられている。北野武が自著『仁義なき映画論』で批判していた『ゴッドファーザーPart3』も3作目で失敗したが、『アウトレイジ』シリーズも3作目で失敗したようである。これからレビューを行うが、このブログはネタバレを一切封印していないので注意して読んで欲しい(といってものっけからネタバレなのだが)。
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死への憧憬ふたたび
私は以前、当ブログ「好きなものと、嫌いなもの」で、ビートたけし演じる大友は死なないと予測した。そう予測したのは、北野監督が『その男、凶暴につき』から『BROTHER』に至るまでのバイオレンス映画を通じて、主役の自殺や殺害により死への憧憬を描写してきたからだ。しかしそれ以降、『座頭市』、そしてこの『アウトレイジ』シリーズも『ビヨンド』までの時点では、死への憧憬が封印されていたのである。
それゆえに私は『アウトレイジ』シリーズの最終作に至って、もはや大友は死なないだろうと予測したのだ。しかし、エンドロール直前の描写を観て驚いた。驚いたというより少しの落胆があった。大友は銃を顎に突き付けて自殺するのである。こめかみにあてると『ソナチネ』になってしまうので顎に突き付けたのか、という差異はあるものの、『その男、凶暴につき』『3-4X10月』『ソナチネ』『BROTHER』などのバイオレンス映画を通じて描かれた死への憧憬が再び描かれてしまった。「またか」というデジャヴュとともに私は劇場を後にした。
原点回帰した『アウトレイジ最終章』
北野映画は『アウトレイジ最終章』によって、原点回帰したということなのだろうか。『アウトレイジ』シリーズは初代で暴力団に生きるヤクザを描き、組織の問題をあぶり出した。『ビヨンド』は組織からはみ出た男・大友が、片岡刑事の意のままに操られ、個人として組織に立ち向かう。片岡刑事は神のようであり、大友含め他の人物は駒のようであった。しかし組織を壊滅させた大友は片岡刑事=神を殺害する。
そして『最終章』は、神なき後、誰の意のままにもならずに個人の意思通りに活動する男・大友を描いた。前提としてはこれで良いが、個人の意思通りに活動するといっても、『最終章』で描かれているのは、世話になっているチャン会長(日本在住の韓国人フィクサー)の意思を勝手に忖度して、自滅していく愚かな男に過ぎない。せっかく縁故入社できたのに、脱落して破滅する男のようである。縁故入社した企業を抜け出てしまう大友は、チャン会長が求めていないことを行為するのだった。
大友の行為を客観視して思うのは、この行為により、誰が得をするのか?ということ。だから大友の行為には強い距離感を感じるのだが、結局、大友は単なるエゴイストに過ぎないということではないのか。
チャン会長の意思を忖度する大友
韓国でチャン会長からシマを預かっている大友は、『ビヨンド』で勢力を伸ばした花菱会の花田に、自分の店の女をキズものにされた挙句、部下を殺害されたことで、怒り心頭に発する。
しかしその義憤は、チャン会長のシマを汚した花菱会の花田を通して花菱会に向かうことになるが、チャン会長は「自分たちはヤクザではないから」事を荒立てたくないと言う。つまり義憤はチャン会長の意思ではなく、大友の利己的な忖度に過ぎない。
『アウトレイジ最終章』は昔の北野映画に戻っただけ
『アウトレイジ最終章』は、強引な展開が見られる。チャン会長が花菱会とのイザコザを金で解決したいと言っているのに、チャン会長がコケにされたと思い込み、韓国から勝手に帰国して花菱会に近づく大友。
誰がこんなことを望んでいるかといえば、大友一人を置いて他にいない。あとは大森南朋演じる市川であろう。市川は大友の部下であるから、大友が一括すれば終わるが、大友はチャン会長の名誉を毀損した花菱会への復讐を行う。
他者は誰も望んでいないのに主人公一人の行動が浮遊してしまうのは、『その男、凶暴につき』『ソナチネ』『BROTHER』などのバイオレンス映画に共通する行動だ。主人公のエゴが際立ち、死へと至るのである。
『座頭市』以降のバイオレンス映画ではその死への憧憬が封印され、新しい北野映画が出現したように感じていた。しかし結局、何のことはない、『アウトレイジ最終章』は、『その男』や『BROTHER』へ回帰しただけのことだ。これを自己模倣と言わずになんと言おう。
退屈な花菱会の内紛
『アウトレイジ最終章』では、大友による花菱会への復讐と平行して、花菱会の内紛が描かれた。大杉漣演じる新会長が証券会社出身の素人ということで、古参の西野(西田敏行)や中田(塩見三省)は軽視している。西野はいずれ自分が会長の椅子に座ろうと目論む。
なんとなく、初代の山王会の内紛を思わせる既視感のある設定だが、初代と違うのは会長に対して初めから西野が楯突いていることだ。だから彼が暗躍するのは目に見えているので、彼が野村会長を倒して花菱会の会長の椅子に収まるのでは、何ら驚きがない。
また、『ビヨンド』の加藤会長と石原若頭のように、部下を締め付けている訳ではないから、野村会長がいかに恫喝しても西野は恐れないので、観ている方もなんら緊張しない。いかに野村会長が素人の会長だからといっても、西野を恫喝するだけではなく部下を使ってリンチするくらいの描写がないと、後半で西野が暗躍しても野村会長自体がチンケな存在で終わっているので、比較対象がなく面白みに欠けるのである。
それにしても西田敏行と塩見三省はどうしたのか。『ビヨンド』では圧倒的な存在感で画面に躍り出ていたが、『アウトレイジ最終章』では病気持ちのジジイしか見えない。大杉漣の演技力との差は歴然で、こんなジジイに野村会長が敗れるようには思えないのだ。
野村会長はインテリヤクザという設定なのだから、機知に富んだ手法で西野や中田を返り討ちにしてほしいものだが、『ビヨンド』の石原若頭を更に矮小化させたようなキャラクターに過ぎなかった。
自己満足に始まり、自己満足に終わる
『アウトレイジ最終章』は、とにかく大友の行動の理由が掴めない映画であった。チャン会長がやるなと言うのに行動して、花菱会に手を下す。だが殺すのは野村会長や花田などの幹部だけで、西野や中田などには何もしない。
どうせ理由なき行動を図るなら、花菱会全員を殺害してくれれば面白かったと思う。中途半端に生きながらえさせるからつまらない。しかも生き残ったのはくたばり損ないのジジイどもである。こんな大友の自己満足を延々と見せられた挙句、大友は昔の北野映画よろしく自殺する。これで良かったのか?
暴力描写に緊張感があって良かったことは、付け加える。ピエール瀧や原田泰造らの死体をまざまざと見せないところは頂けないのだが。あと、特筆すべきは鈴木慶一の音楽だ。それと何人かのキャスト。それだけのために☆3つは誉めすぎかもしれないが。
『アウトレイジ最終章』のキャスト
『アウトレイジ最終章』のキャストは、花菱会の野村会長役の大杉漣、幹部役のピエール瀧、岸部一徳をはじめとして多くの俳優が新陣営として脇を固めている。特に野村会長役の大杉の演技は凄味があり、知的な元証券マンという経歴からは想像し得ないほどの恫喝をして、若頭の西野(西田敏行)や中田(塩見三省)らを畏怖させる。
ピエール瀧も『アウトレイジ』初参戦とは思えぬほど画面に慣れた印象を与え、最初に出てきた時はSMプレイに勤しむバカなヤクザとして出てくる。この設定は素晴らしく、彼は最後まで変態である。ただ、彼の活躍は多くなく、ぜんぜん暴れない!北野監督はピエール瀧が最高の演技をみせた『凶悪』を観ていないのではないか?とさえ思えた。もしあれを観ていたら、ピエール瀧をもっと活躍させただろう。
それにしても、西田敏行と塩見三省の演技は弱弱しくて酷い。ビートたけしもカツゼツが悪く聞き取り難い台詞を吐いているが、外見は相手を畏怖させる存在感がある。だが西田と塩見は現実に病気をしたせいか、みすぼらしいほどに痩せていて、塩見などは杖をついている始末だ。山王会の白山と五味に、恫喝してみせる中田(塩見三省)だが、『ビヨンド』での恐ろしいヤクザぶりはどこへ行ったのか、くたばり損ないのジジイが喚いているようにしか見えない。『最終章』の最大の敗因は西野と中田を出演させたことにあるのではないかと思うほど、彼らの演技は酷い。こんなボケたような二人が野村会長に勝てるとはとうてい思えないのだが!