妻がAmazonプライムの会員なので、定額で、映画を際限なくテレビやタブレットなどで観ることが出来る。私はPS4からAmazonに繋いで、TVで映画を観る(TVにもAmazonのアプリがあるのだが、ゲームやりたさにPS4から繋いでいる訳である)が、ネット接続の調子が悪い時を除けば、快適に観ることが出来るので、重宝している。映画のタイトル数は多くないが、ラインナップは通り一遍のものではなく、大作映画はもちろんあるし、マイナーな映画も中にはある。洋画に留まらず邦画もある。私はたけしの映画を除けば、邦画が好きではない方だが、時々は観る。だいたい落胆することが多いが。
そういう場合は過去に観て面白かったと感じた作品を再度観ることになるだろう。『GO』はその”系統”の映画である。2001年公開なので、私の青春時代の一作だ。また、窪塚洋介の出世作ということもあって、Amazonプライムにリストアップされた作品中に見つけた時は、いつか観たいものだと思っていた。
この映画を観るのは10数年振りとなる。色あせたセピア色のように少し恥じらいをもって見せられる部分もあったが、充分に鑑賞に耐えられる作品である。主演の窪塚洋介は、最近の邦画出演やスコセッシの映画『沈黙』出演時と比べるなら演技力に物足りなさを感じるが、『GO』の主演も悪くなく、ということは、ここ数年の彼の演技力がいかに卓越したものに到達したかがうかがわれる。ただ、『GO』のハングルの発音はかなり日本的な淡白な発音で、この人、本当に(民族学校に通学する)在日なのか?という感じを与えたのは残念だった。
窪塚が演じる杉浦は、在日韓国人(元朝鮮人だが韓国に帰化した)として、鬱屈してあり余る力を外に向かって放出しようかしまいかと、逡巡している役である。喧嘩が滅法強く、向かってくる強敵を次々に葬り、納得出来ないことには強く言葉で反発するような攻撃性を持ちながらも、落語を聞いたりシェイクスピアを読むなど内省的な面を併せ持つ。窪塚はこういう、外的にエネルギーを発散しつつ、内面をじっくりと深める複雑な役を演じることに長けている。
杉浦の両親は、北朝鮮人であり、ハワイに行きたいという奇妙な理由から国籍を韓国人に変えていた。そんな両親を親しみながらも冷笑的に見ているところがあり、自分はどうあるべきか?自分とは何だろうか?と常にアイデンティティのあり方を思索している。
杉浦の恋人は桜井という女子高生で、若き柴咲コウが演じている。最近の柴咲は綺麗だと思うが、若い頃の彼女はどこにでもいそうな無個性的な感じであまり良くない。まだどういう風に演技すべきかということが分かっていないように思える。
物語は、在日韓国人としての杉浦のアイデンティティを模索する内容である。ありきたりといえばありきたりで、真新しいものではない。少年がアイデンティティ追求をするのは当たり前であって、そこに、「在日韓国人」であることや、「在日から見た日本との関係」などの事例が少し独特に見えること、更に、スピード感あふれる演出、そして杉浦という少年の、鬱屈してあり余る力を外に向かって放出しようかしまいかと、逡巡している役柄を体現した窪塚洋介の演技力があいまって、面白いものになってはいる。やや喜劇風のセリフや、キャラクターの設定も物語をシリアスになり過ぎないように仕立ててはいる。だがまあ、上辺を飾り立てているに過ぎないと言えば、確かにそういう感じがする。軽快な演出やリズムで観る者の関心を引き寄せ、アイデンティティや在日などの真摯な問題へ触る手はずを整えたという印象は拭えない。
そうはいっても、逡巡する杉浦が最後、「俺は何人なんだ!」と叫ぶシーンは、これまでの鬱屈した心情が爆発する良い場面である。あまり肩肘を張らずに、軽快でちょっとだけシリアスな青春映画として観る分には良いのだろう。
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脚本のクドカンのおかげなのか、キャラクターは非常に良かった。
窪塚や柴咲については上記の通りだが、脇役で坊主頭の新井浩文が出ている他、先輩役で山本太郎も出演。山本は、私には「たけしの元気が出るTV」のメロリンQのイメージが強かったが、本作の演技は力強く存在感があって良い。新井は、2001年というこんな昔から凄まじい存在感であることが分かるが、あの眼力を見せられたら教師だって怖がってしまうだろうと思う。新井が演じたのは杉浦と同学年の在日朝鮮人だが、朝鮮語よりも、日本語の方が感じが出るということをしきりに言っていて、特に生理現象を口語で言う際に日本語の方が感じが出ると言う。民族学校に通う在日朝鮮人という、特殊な環境にいるからこそ現れる、興味深いこだわりである。『GO』の原作者が在日だから気付く点かと思いもする。良いシーンである。私が贔屓にしている新井が演じているからというのもあるが(笑)
その他、タクシーの運転手役で田中哲司、大杉漣、暴力団の部下役で津田寛治などが出ている。杉浦の友人の加藤役は、最近、神田さやかの夫として俄かに脚光を浴びた村田充が演じていたが、『GO』では暴力団の組長を父に持つ高校生役でそれなりに特徴的だったのに、その後鳴かず飛ばずとなってしまったのがもったいない。背の高いいしだ壱成みたいである。
母役で大竹しのぶが出ている。私は大竹のいつも通りの演技が好きではないので、今回も評価出来なかった。
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どうでもいいが、窪塚洋介は若い頃よりも今の方がずっとかっこいい。私と同世代で、彼の方が少し上だが、それにしても30代後半になって魅力が損なわれることなく、むしろ熟していく彼の姿を、銀幕でもっともっと観ていきたいと思う(『アリーキャット』はDVDで観るが)。