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【書評】 人口と日本経済 著者:吉川洋 評価☆☆★★★ (日本)

読者に親しみをもってもらうための雑音が邪魔だ

日本経済における人口の問題を取り上げた経済評論。著者は東京大学名誉教授の吉川洋。著者には、経済評論といえども割りと経済学の理論を丁寧に押さえつつ語るイメージがある。私が読んだ著者の本で『今こそケインズシュンペーターに学べ』『デフレーション』のいずれにも共通するのは丁寧な説明である。

しかし本書は全体的に「読者に親しみをもってもらおうとする意図」が感じられる。つまり、ケインズシュンペーターマルサスリカード、ヴィクセルなどの経済学者の理論を引用するに留まらず、夏目漱石シェイクスピア、東洋思想にまで触れているのだ。経済学以外の情報を採り入れることで、読者の歓心を引きたかったのだろうが、雑音のように感じられて野暮ったい印象さえも与える。新書という枠が著者に合わないのか分からないが、いつもの丁寧な説明も物足りないようだ。『デフレーション』みたいな分量で説明する訳にはいかないだろうけど、もうちょいなんとかならなかったかな。

経済成長を決めるのは人口ではない

日本経済における人口問題と聞くと、人口減少が経済の衰退を招くという命題を予想するだろう。実際、著者もそういう文脈を仮定している。しかし本書の主張は、そのような文脈だけでは経済の衰退を捉えきれないということと、人口が減少しても日本経済が経済力を保持することができるということだ。

これは『デフレーション』でも、小泉政権構造改革を論じた『構造改革と日本経済』でも一貫している。もっとも、人口減少が経済に与える影響を無視する訳ではなく、人口減少ペシミズムとでもいうべき悲観論が行き過ぎていることが問題であると断じる。はしがきでタネが明かされている通り、「先進国の経済成長を決めるのは、イノベーション」なのである。

第2章で論じられている通り、「経済成長を決めるのは人口ではない」のである。著者は「日本の人口と経済成長」をグラフを用いて明確に説明してしまう。1870年から1990年までのグラフだが、これを見ると経済成長と人口との相関関係が弱いことが明らかだ。では、何が経済成長を決めるのかというとイノベーションである。

イノベーション労働生産性の上昇をもたらすのか?

イノベーション労働生産性の上昇をもたらす最大の要因である。だから、経済成長を決めるのはイノベーションというより労働生産性であろう。また、イノベーションとは、ハードな技術に留まらずソフトな技術のことも指す。例えば世界を席巻したスターバックスを例に引き次のように書く。

スターバックスのコーヒーそのものに、特別優れたハードな「技術」があるとは思えない。成功の秘密は、日本では「喫茶店」、ヨーロッパで「カフェ」と言ってきた店舗空間についての新しい「コンセプト」、「マニュアル」、そして「ブランド」といった総合的なソフト・パワーにある。

スターバックスのビジネスは、イノベーションというには陳腐な例えのようだと思う人は、アップルのiPhoneiMacでもイメージすれば良い。人口が経済成長を決めないという、人口と経済成長の相関図をグラフで明確に見せられてしまうと、確かに、人口減少したからといって経済成長が鈍化するとは言えないよね、と考えはするんだけど…

でも、イノベーションなのか?というと、本書を読んでも、分かったような、分からないような印象がある。労働生産性という概念があり、これが経済成長を決めるというなら、私にも分かる。その上昇をもたらす要因がイノベーションというと、そういう側面もあろうが、それが最大か?というと、今ひとつピンとこないのだった。毎度毎度、企業がスターバックス的なイノベーションを生み出せる訳もない。

そもそも、業界によってイノベーションがなくても成長していける業界もあるのではないか?新規な商品とかスターバックス的な新しい空間が要らないけれど、成長していける業界はないか?明確にこれとは言えないが、イノベーションありきで経済成長を捉えたくない気がして仕方ない。