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【書評】 ひきこもらない 著者:pha 評価☆☆☆★★ (日本)

 

ひきこもらない (幻冬舎単行本)

ひきこもらない (幻冬舎単行本)

 

専業主婦である妻にはphaは不評らしく、私がYouTubeで彼の動画を見ながら料理をしていたり、録画しておいた彼の出演番組を見ていると余り良い顔をしない。

「また、pha?」と妻は呆れながらも、強く否定はせずに言う。そういう時、私は落ち着かない気持ちになるが、決してその反応を示されることは嫌ではない。妻が、元ニートで家族を持とうとしないphaについて、嬉々として「phaって良いよね」と言ってきたら、私は嫌である。phaを「良いよね」と言えるのは私のように日々働いている者ならではだ。

 

「また、pha?」と妻は呆れるが、それは、テレビゲームをしている時の親の反応に似ている。 私がプレイステーション(初代)をしながら遊んでいると、親は決まって「また、ゲーム?」と言う。その頃私は中三になっていて、今更「ゲームは1時間」と叱られることはないが、やはり呆れられる。その呆れは、母にとって、「まあ中三になるとこんな子どもでも色々あるんだろう」という程度の認識からもたらされる、従って、ゲームくらい良いかという思いと、でも遊ぶにしても外で遊ぶとかしてくれないかという思いとが入り混じった呆れである。

 

それと同様に、妻もまた、私が労働で疲弊してくたびれている時に、「働きたくないですね」という、phaのくぐもった、いかにも無為の生活を送っている人間の声を聞いて安心することを認識しているゆえに、「phaくらい良いか」という思いと、「こんなニートじゃなくて、もうちょっと洗練された人物にしてくれないか」という思いとが入り混じった呆れである。

 

そのphaが新刊『ひきこもらない』を発表したというので、谷崎潤一郎川端康成の小説を読むのを一時的に中止して、『ひきこもらない』を読むことにする。谷崎はまだしも、川端は世界観が個性的なので、腰を据えて読まねばならないので、頭を楽にさせたいためにphaを読む時間を取る、という理由もあった。

 

幻冬舎plusに発表されたエッセイを収録したエッセイ集で、肩肘を張らずに読めるものが多い。

 

『ひきこもらない』を読んでいて気付いたのは、phaは、人間関係においてはコンビニのようなマニュアル的な交流を望む割に、ビジネスにおいては非マニュアル的な仕事を望んでいることである。後者については、毎日毎日同じ時間に出社して一日中デスクに座っていることが耐えられないと言っている。逆に言えば、その反対なら良いということだろう。

 

すなわち現在の著述家業は、彼の働き方に合っていると言える。非マニュアル的で、創造的な(クリエイティブな)働き方である。私も毎日会社に出社している訳ではなく、顧客のところへ直行することが多く、帰宅時間が仮に2時とか3時であっても出社しない。時間で自身の価値が決まるのではなく生産性で価値が決まる仕事をしているからだ。だからと言って私はphaのように毎日出社することが耐えられない訳ではないけれども、好きか?と言われれば、断然、嫌いである。特に東京にいると殺人的なまでの満員電車に乗って出勤するのがバカバカしく思える。家で出来る仕事を、わざわざ会社でやりたくない。上司や同僚と打ち合わせをしたければ、顧客と打ち合わせをした後に、喫茶店にでも入れば良い。周りの声が気になるのならカラオケボックスでも良いかもしれない。

 

だからphaが言わんとしていることは分かる。私は彼ほどの非マニュアル的な働き方をしている訳ではないが。

 

本書には私が好きな村田沙耶香の『コンビニ人間』のくだりが出てくる。もちろん人間観駅についての箇所でである。私はマニュアル的な人間関係には反対で、少しもphaの言っていることが理解出来ないが、phaにはそういうところがある。家族を持たないというのも全く理解出来ないし、反対だが、まあ、全部賛成の人間なんていたら不気味なので、この程度の価値観の共有が出来れば十分とも言える。

 

このエッセイ集は肩肘を張らないで読めるが、全部がそれではやはり退屈なので、どうしても評価は辛くなるが、それでも徹底して、「何もしない」とか「だるい」とかいった価値観を体現しているのはさすが。私が一番好きなのは、「小笠原で何もしない」というエッセイである。しかもphaは、一ヶ月も小笠原諸島に行っているのに、相変わらずパソコンしたり、読書したりするだけなのである。わざわざ小笠原に行って!?それで良いのである。そのくらい、何もしないことが、良いのである。常に何かしているのに、旅に出てまでも何かしていたら、リラックス出来ないじゃないか。やっぱり、phaは良い。好きである。

 

 

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